昨日は石垣で、延期になっていたBEGINのコンサートがあった。曲の構成も音楽もよく練られていたが、皮肉なもので3月20日の方が意外性があってよかった気もする。まあ2回合わせて120パーセント楽しんだので、これ以上求めたらよくばりだ。
石垣からは11時の船で戻った。大潮の今日、間もなくやってくる世願祭(ユニーガイ)のために品取りに行くといわれたからだ。ジーボさんとギマのおじいが船を出し、婦人の役員3名も乗る。イノーという沖のリーフで、祭に必要な貝を採ってくるのだ。祭で御嶽に備える食材は、事前に海に行ったり山に入ったりして準備しておく。それが品取りだった。
出発は午後といっていたのに、12時ごろナリコさんの家に行くと、だれもいない。
「さっき、タコを突くための道具を忘れた、といって戻ってきたけど、すぐに出て行ったよ」
向かいの家のゴウくんが教えてくれる。
「さっきって、いつ?」
「30分ぐらい前」
ガーン! それじゃもう海の上だ。
一縷の望みを託してジーボさんの家に行くと、
「どこ行ったかわからないけど、いない」
あきらめきれずヒロミさんちに寄ると、
「潮の引きが早いといって、11時ごろ出ていったよ」
あーあ、置いて行かれた。
しょうがないので浜でモズクを採る。明日は旧暦3月3日の浜下り。女性は海に足をつけて清めないと、ヘビの子を産むといういい伝えがある日だ。そのため、子供や女性は潮干狩りなどして遊ぶことが多い。浜下りのころ採れるモズクがいちばんおいしいといわれることもあって、海では大勢の人がモズクを採っていた。
6時ごろ、海から帰ったナリコさんから電話があった。
「今日採ってきた貝をゆがくから、7時に公民館に来てね。ごめんだけどよろしくね」
“ごめんだけどよろしく”というのはこちらの表現なのか、ナリコ語なのか。おもしろいいい方だ。「忙しいのにごめんね。でもよろしくね」という意味だろう。
ここのところ毎日公民館に行っている。
「うわぁ、また?」
という気がしないでもないが、これも仕事の一部。微々たる額だが報酬ももらうので、いいかげんにはできない。あわてて食事を済まし、シャワーを浴びて出かける。
公民館の厨房には、3人の役員のほかに、あとからギマのおばさんも来た。去年から、祭のとき御嶽で神司を手伝う御嶽補佐(ウガンブサ)をやっているからだ。
貝はすでに大鍋にかかっていた。小さいものには火が通り、殻から出せるほどになっている。ちっちゃな巻き貝から、注意して中身を出していく。これはわりとすぐに終わった。
もう一種類のチチパヤという貝は、少し手間がかかった。中身は1cmぐらいのスカラベのような形をしている。水の入ったボウルに貝を全部入れ、ひとつ手に取っては周囲についている細い筋状のゴミを取り、背中のワタをつぶして外す。そうすると、ただでさえ小さい貝が半分になってしまう。厨房の床に新聞を敷いて座り、時間がかかるのを覚悟でおしゃべりしながら手を動かしはじめた。
「今日、ナリコさんとヒロミさんのおうちに行ったら、もう出たあとだった」
貝をいじりながら話す。
「間に合わなかったみたいね」
とナリコさん。
「来ないでよかったよ。船が揺れてよ、バッサンバッサン頭からなん度も水かぶったさ」
どうも大変だったらしい。そういえば石垣からの船も揺れていた。
そこにナオコさんが現れた。20年前に1年弱、干立に住んでいた石垣出身の女性だ。休業中だった干立のホテルを借りて、間もなく再開させようと準備中だった。時間があるようなので手伝ってもらう。
「島っておもしろいわよね。こうやって貝を処理したりしてゆっくり時間が過ぎるんだけど、行事が多いから忙しいのよ」
ナオコさんは都会暮らしが長かったので、内地の人のような感覚の人だが、確かにいう通り。のどかなことをやっているのだけれど、のどかも重なると大忙しになる。それでも都会暮らしで感じるストレスはなかった。
「今年は神年だから、シチのときに踊りもやるよ」
とナリコさん。4年に1度の神年には、御嶽に舞台を作り、いつもの芸能以外に踊りも奉納するらしい。どんなふうになるのだろうか。はじめての経験なので楽しみだ。
問題なのは、ヤマエギという貝だった。これは去年、おばあたちが集まって下ごしらえするのを手伝ったが、非常に面倒くさい。まず、頑丈な鎧を着たような貝をなん時間も煮る。柔らかくなったら、鎧をはずす。貝のフチの部分についているコケみたいなものをこそげ取り、背中の部分を裂いて中にあるワタを取る。裏に返し、ヒダの奥にあるゴミを丁寧に取り、裏側のフチの薄い膜状のものもはがす。これを無限に繰り返さなくてはならなかった。取り除くはずのワタなどが残っていると、砂でじゃりじゃりしたり、硬くて食べられないらしい。いちばん仕事がはかどらない貝だ。
肩はバリバリ、目もチカチカしはじめてきた。もう今日はやめたいなぁと思ったが、私はいえる立場にない。あきらめていたが、問題が起きた。
「あ、火が消えている」
どうやらガス切れらしい。
「もう炊けてるんじゃない?」
ヒロミさんがいったが、ナリコさんがチェックすると、
「まだ硬い」
しょうがないので本日は10時でお開きに。ガス欠に救われたが、ガスがあったら夜中までかかっただろう。やれやれ。