4月11日(月) 「浜下り」 くもり

 朝、週末採ったモズクを送りに郵便局へ行く。
「いらっしゃい!」
局長が、お寿司屋さんのような威勢のいい挨拶で迎えてくれるのは、いつも通りだ。

モズクの入った段ボール箱を台の上に置くと、局員のタマシロさんが来てくれた。ちょっと改まって、
「中身はなんですか?」
 と聞く。
“へんだなぁ。いつもと雰囲気が違うぞ”
そう思ったが、素直に
「モズクです」
と答えた。中身を明記するところに“モズク”って書いてあるじゃん、と思いながら。

「局長、もずくだそうです」
タマシロさんがいうと、後ろから局長のミサオさんがやってきた。
「ペットボトルに入ってますよね」
「はい」
「じゃ、大丈夫だね。いやぁ、こんなものが来たんで」

見せてくれたのは、1枚のお知らせだった。西表からではないが、ビニール袋にモズクを入れて大量に送った人がいたらしい。飛行機で輸送中、そのビニール袋が破け、海水が流れ出し、飛行機の電気系統を故障させた。あわや130人の命がモズクのために失われるところだったとか。

「それで今日は、みんなピリピリしてるんです。モズクで死にたくないさね」
 まったく同感。

 午後は内離へ。チョータローさんがモズク採りに連れていってくれるのだ。安栄以外の船に乗るのは久しぶり。景色を見ながら風に吹かれているだけでも気持ちがいい。

「船のチョータローさんはちょっと違うと思わない? この間なんか、怒られちゃった」
 私と一緒に誘われたやっちゃんがいう。70歳過ぎのチョータローさんは、ガンの手術後、人工肛門になりながらも、海人として毎日頑張っている。陸の上ではいつもニコニコしていて、お魚をよくくれる。私にだけでなく、いろいろな人に見返りを期待せず気前よく配るものだから、みんなに好かれているのだ。やっちゃんのいうように、船の上のチョータローさんは陸の上とは違った。いつになく凛々しいのである。

モズクは島のあちこちで採れたが、やはり人の住んでいない場所のものがいいようだ。人や船の出入りがないので大きく育っているし、生活排水の影響を受けていないため、安全性が高い。干立の海も悪くなかったが、内離、外離に行った人から、
「小一時間で30kg採れた」
などと聞くと、私もぜひ行ってみたいと思っていた。

チョータローさんは私とやっちゃんに、モズク狩りがてら浜下りをさせてあげたいと思っていたようだ。
「おやつも買ってあるぞ」
といって見せてくれたのは、ヨモギ餅。旧暦3月3日の浜下りは女の子のお祝いだ。海に足を浸し、ヨモギ餅を食べる習慣になっている。その祝いのヨモギ餅まで、彼は用意してくれている。なんというお姫様待遇。至れり尽くせりではないか。

内離に行く途中、祖納で生まれ育ったやっちゃんが教えてくれた。
「昔はね、このあたりの浜にウニを捕りに来たんだって。いっぱいあったってよ。私なんかの子供のころはだいぶ減ってたけど、いまはもうほとんどいないよね?」
 チョータローさんに相づちを求める。
「ないね〜」
 とのんびり答えるチョータローさん。

「大原の方ではね、ウニが食べられるのを知らなかったって。だからいつまでもいっぱいあったってよ。もったいないねぇ」
 とやっちゃん。本当に、もったいない。

 そんな話を聞いているうちに、内離島沖に着いた。
「うわー、いっぱいある!」
 やっちゃんが大喜びしている。たしかに、食べごろのモズクが収穫を待つ畑のようにように広がっている。
「いっぱいだね、チョータローさん!」
 重ねてやっちゃんがいうと、
「いっぱいいっぱいいうな、人が来る!」
 あくまでも、人に知られたくないチョータローさんであった。

モズクはゴミもほとんどついておらずきれいで、なにより大きく育っていた。あっという間にザルがいっぱいになる。クーラーボックスに移し、また採る。なぜかここのモズクは採っても採ってもなくならない。採りながら少しずつ場所を移動し、ふと振り返ると
「あれ、採り忘れた?」
と思うほど。採る端からすぐに生えてくる感じだ。

モズクがクーラーボックス半分ぐらいになったころ、
「ちょっと休憩やろう」
とチョータローさんがいいだした。船に上がる。チョータローさんはヨモギ餅とお茶を出してくれ、やっちゃんはおにぎり、ポークランチョンミートのソテー、卵焼きを持ってきていた。私だけだ、手ぶらなのは。

ふたりが持って来てくれたものをいただきながら、周りを眺める。少し離れたところにテツコさんがいたので手を振る。知らないおじい、おばあと3人で来ているようだ。採ったモズクは売るといいお金になるらしい。
「私なんかスノリ(モズクのこと)を売って、子育てしたよ」
テツコさんが以前いっていたのを思い出す。

モズクは塩漬けにして保存するのが普通だ。しかしチョータローさんが若いころは、塩も貴重だった。採ったモズクは板の上に広げてゴミを取り、そのまま乾燥させたらしい。そして竹の棒に渡して囲炉裏の上に下げておいた。そうすると煮炊きするときの煙で燻され、腐らず虫もつかなかったという。
「カラカラに乾いたけど、水に戻したら同じ味になったよ。おいしかったよ」
西表の昔の話を聞くのは、いつもおもしろい。

休憩の後もしこたまモズクを採った。ちょっと疲れたなぁと思っていると、
「あー、難儀だ。帰ろう。大漁過ぎる」
 チョータローさんも体がきつくなったらしい。それでも3人ともなんとなくモズクを取り続けていたら、
「あーバカらし。見ると手が出る」
 その通り。いつまでたっても大きなモズクがあるものだから、なかなか止められないのであった。


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