3月20日(水) 「BEGINのライブ」 くもり

BEGINのコンサートが石垣であると知ったのは、1週間ぐらい前のこと。今年はデビュー15周年にあたり、出身地の石垣島でもコンサートを行う。ただいまチケット発売中である、という内容が新聞に出ていたのだ。

全国的にはどの程度知られているかわからないが、BEGINは沖縄、特に八重山では幅広い世代に人気があるメジャーアーテイストである。私は2003年の正月に、成人式の余興で『島人ぬ宝』を小中学生が歌うのを聞いたのがBEGINとの出会い。それまでは、恥ずかしながら全然知らなかった。

こちらではイベントがあるたびに、BEGINの歌を聞くことが多い。『島人ぬ宝』は島に生きるいまの若い世代の気持ちを歌ったものだし、『オジイ自慢のオリオンビール』はノリよく飲める曲だ。沖縄のビール、オリオンビールのキャンペーンソングになり、CMで使われたり、BEGINの姿がイラストになったBEGIN缶が出たりした。『竹富島で会いましょう』はご当地ソングでやはり地元に人気である。『涙そうそう』は、いうまでもなく全国区の曲。

こちらに住んでBEGINの曲を聞くと、
「そうそう、そうなんだよ!」
 と共感することが多い。「わかるわかる」というのが、歌詞だったり、リズムというかノリだったり、曲によって共感するポイントは違うのだが、彼らの歌は八重山人の心をいたくくすぐるのである。

私はBEGINの大ファンというわけではないが、15周年で地元コンサートをやったら、きっと盛り上がるぞ〜、楽しいぞ〜、と直感した。それに、会場の石垣市民会館大ホールは小さなハコである。コンサート1週間前に買えるチケットなんてろくな席ではないが、たとえ最後列でもそんなに遠くないのだ。しかも、内地の会場では6000円のチケットが、石垣では4500円。これはもう、行くしかない。

今日はそのコンサートである。18:00開場の予定だったが、中に入ったのは18:30過ぎ。
「チケットから半券を切らずにお入りください」
ずいぶんへんなことをいっているなと思った。チケットはもぎりもぜず、見せるだけだったが、それもろくに見ていなかった。カバンのチェックもなかった。このガードの甘さは石垣だからだろうか。

開場は満席だった。立ち見もいる。私の席は予想通りいちばん後ろだったが、真ん中に近く、通路の向こうは招待された家族席だ。悪くない。

19:00前、まだ明るいままのステージに、3人が登場した。拍手がわく。おかしいなぁ、普通はライトを落とすものなんだけど。ボーカルのヒガさんが話しはじめた。

「今日はほんとうに、こんなことになってすみません」
 なんの話だ?
「本日、3月20日のコンサートは4月9日に延期になりました」
 は? これも演出の一部か?

コンサートは本当に延期されるようだった。だからチケットを切らなかったのか。原因はヒガさんの声が出ないことだった。
「こんなかわいそうな声になっちゃってますけど、風邪ひいているわけでもなんでもないんで。ピンピンしているんですよ」
 そう話した声は、少し荒れていた。風邪が治らないままツアーに突入。お世話になったライブハウスなどでも歌ったので、店の人と夜中まで飲むことが続き、治りが遅かった。あげく、声が出なくなったということだ。

「でも、僕の声がこんなだからって、みんなと楽しい時間が過ごせないわけではないだろうと気づいたんだで、今日はこんな声ですが、なん曲かやらせてください」
 大きな拍手がわいた。飛行機に乗って、わざわざ内地から訪れている人も少なくなかった。石垣島以外に住む八重山の客も、船に乗って、帰りの船がないので宿泊費まで払ってコンサートに来ているのだ。私も1万円使っていた。「今日はなしです。延期したのでじゃあまたね」では暴動も起きかねない。

 1曲目はエリック・クラプトンの『ワンダフル・トゥナイト』だった。前奏が始まり、どんな声なのだろうとみんなが第一声を待った。
「……なるほど」
 ちょっと高音に伸びがない、といった次元ではない。声はガサガサ。この歌声で2時間やられたら聞く方はつらいかもしれない。

しかし、声が出ないことを勲章のようにして通すアーティストもいる。
「ツアーの後半になって、こんな声になってしまいました。でも、精一杯歌いますので、今夜もみんなで盛り上がろう!」
 そういって、押し通せばやれないこともなかった。でも、彼らはしなかった。八重山の価値観も考慮したのだと思う。コンサートにはメンバーの家族や親戚、友人も大勢来ていた。あの声でコンサートをしたら「あんなんでお金取るか? おっそろしー」といわれかねない。いずれにしろ、彼らには誠意があった。

この日の内容は、始まる1時間ほど前に決めたようだ。普段は歌わないボーカルやキーボードのメンバーも歌を歌い、バックのベースやドラムにスポットを当てて演奏を聞かせた。メンバー3人で中学生のころの思い出話などもした。出てくる地名、お店の名前は観客もがよく知っているところ。話す言葉は島言葉。歌がうまくて話のおもしろい近所のお兄さんが、公民館よりちょっと大きな会場で歌うのを聞いている、という雰囲気だ。私たちは彼らと、歌だけでなく、歌の背景にある文化を共有していた。皮膚感覚で共感できた。彼らも地元にいることで、リラックスしているようだった。

「なん曲か」といっていたハプニングライブは、結局1時間半行われた。子供連れの若いお母さんも多かったが、子供が騒いでも
「もっと騒ぎなさい。おじさんも勝手にもうちょっと歌いたいから」
 といったりして、なごやかだった。

 楽しかった。4月9日に来られない人も満足していた。4月9日に来られる人は、ライブを2回も聞けることに喜んでいた。出口で主催者は痛々しいほど頭を下げていたが、食ってかかる人はだれもいなかった。
ほのぼのとうれし楽しい夜だ。


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