3月27日(日) くもり
午前中はアンツクのための縄ないをして、午後からアンツク講座の補習を受ける。横縄が入り、だいぶカゴっぽくなってきた。かなりうれしい。
夜は公民館主催の送別会。年度中ほかの集落へ引っ越していった人たちも呼ぶのかと思っていたら、学校の先生や医者など公務員のためのものだった。
舞台下のひな壇には、イイ先生一家がいた。先生夫妻と3人の子供たちだ。先生の挨拶のあと、妻のトモコさんがマイクを持った。
「えっと……」
少し話しては中を見上げて、お腹をポンポンたたいている。
「学校での挨拶はトーサンとヒロキが大泣きしていたんですが、今日は私の方がきてます」
婦人部の仲間の顔を見て、泣きそうになっているらしい。お腹をたたいて気持ちを落ち着かせ、涙を引っ込ませようとしているのだ。息子のヒロキ君は聡明な小学2年生である。
イイ先生一家は2年前に島にやってきた。最初から地元にとけ込み、部落活動も積極的に参加し、家族全員が村の人たちに好かれていた。イイ先生は今年度、公民館の会計になり、きめ細やかな仕事ぶりを発揮。トモコさんも、幼児を抱えながら妊娠中だったにもかかわらず、祭のときには裏方を地道に手伝っていた。
学校の先生の任期は2〜3年らしい。2年目を終えたところで延長の希望を出したが、学校の児童が減っていることから教員の人数も減らさなくてはならず、願いは叶わなかった。イイ先生は奄美、トモコさんは沖縄本島出身だが、西表の環境が大変気に入り、
「できれば土地を買って永住したいですよ、ホントに」
と冗談交じりにいっていたことがある。離任に際し、先生やヒロキくんが大泣きしたというのは、よくわかる気がした。
ひととおり挨拶などが終わると、主賓もひな壇から下りて歓談だ。場を保たせるため、そろそろ踊りなどやるのかなぁと思っていると、ヒデコおばさんが私の方を見て、「行け」と目で指示した。今日はユキちゃん、ムツミさんと3人で『目出度節』だ。
踊り終わり、戻りしゃべっていると、ギマのおじい、カンコーおじいが席に呼んでくれた。
「今日、みされおるんなよ〜」
と挨拶してみる。方言で、「今日はごきげんいかがですか?」という意味らしい。
「あれ、どこでそんな言葉おぼえた?」
カンコーおじいが驚いている。意外な人間から意外な言葉を聞いて、うれしそうだ。
「おじさんが前に教えてくれたじゃないですか」
当時、まだ私はそれほど認識されていなかった。私は部落の人のほとんどを知っていたが、部落のほとんどの人は私に関心がなかった。だれを見ても区別がつかない若いナイチャーのひとりだと思われていたはずだ。もっと方言をしゃべって驚かしたいが、これしか知らないのが残念だ。
宴も落ち着き、外で涼んでいると、アキちゃんが話しかけてきた。
「最近、チナミちゃん、顔つきが柔らかくなったね」
そうなの?
「来たばっかりのときは、肩に力が入っていたというか、私は書くために来たんです! って感じだったよ」
そういうふうに見えていたのか。
確かに来たばかりのころは、いろいろな意味で緊張していた。退路を断って移り住んだのだから、なにかモノにしないといけない、と強く思っていた。その“なにか”が自分でもわからなかったせいで、ものすごく不安だった。
しかし時間が経つにつれ、自分の中にある時間の感覚が変わってきた。最初は、
「ずっと住み続けるわけじゃないから、すべてのイベントを残らずチェックしたい」
とギラギラガツガツしていたのが、最近は、
「疲れているから、今年もこの行事は見られそうにない。来年行けばいいかぁ」
と、無理せず先送りする。
東京にいたときには1日にいくつもの約束を入れ、それをこなすのが充実した生活だと思っていた。こちらに住むようになってからは、1日に1つしか予定を入れない。もし4〜5日用事が続いたら、次の1週間はなるべく他人と約束しないようにする。私にはそれがちょうどいい忙しさだった。
やっぱり変わったのかなぁ、私。
3月28日(月) 雨のちくもり
昨日の晩は夜中に物音がして、睡眠を中断された。人が入ってくるような音だったので、もうほんとうにびっくりし、一瞬にして目が覚め眠れなくなった。それが2時半。しょうがないのでたまっていたメールの返事などを書き、眠くなるのを待つ。ようやく寝たのは、ニワトリが鳴きはじめた5時半だ。
次に目覚めたのは9時半。郵便局まで散歩していたら、干立から祖納に越していったキヨキヨに会う。
「おうちの外にハロゲンヒーターが置いてあるけど、忘れてない?」
空き家になったキヨの元の家には、新しそうなハロゲンヒーターがぽつんと残っていた。
「あれ、壊れてるの。いいよ、持っていって」
欲しいと遠回しにいったわけではないのだが、くれるというなら喜んでもらう。三好さんになら直せるかもしれない。
あーでもない、こーでもないとあちこちいじくった結果、ハロゲンヒーターは見事に動き出した。すばらしい! これで今度の冬は、部屋がだいぶ暖かいはずだ。
夜はまたまた小学生を前に踊る。そのあと、ホタルとこうもりの専門家による講演会に行った。そういえば、先日、遭難した3人の捜索に行った帰り、車を止めていた場所でコウモリを見た。明るい時間、しかも町中の木の低いところに止まっていてびっくりした。西表はやっぱりすごいところだ。