今日から3日間は旧盆。いよいよアンガマの本番だ。
遅い午後、踊りの練習を少しして、シャワーを浴びる。軽くご飯を食べてから化粧をし、身支度。いざ出陣! という気分だ。
公民館で『ソール念仏節』のおさらいをしてから、最初の訪問先、ハエミエンへ。駐車場で分乗した車から降りると、ウシュマイ、アッパーを先頭に、地方、サンピキ、太鼓、ファーマーの順で列になる。三線や銅鑼など鳴り物を鳴らしながら「フーワッ、フーワッ」と奇妙な合いの手を入れ、クバ扇を振りつつ玄関まで練り歩いて行くのだ。
アンガマはみな、だれがだれだかわからないよう変装するのが決まりである。そのため、ウシュマイ、アッパーは着物姿で、顔には木製のおじいさん、おばあさんのお面。地方は着物に花笠で三線を弾いている。サンピキは昔の正装だった白いカッターシャツにカカン(*1)。太鼓はすそをからげた浴衣姿。サンピキと太鼓は紫帯と呼ばれる紫色の長い布を頭からかぶり、首のところでリボン結びにする。こうすることで顔を隠していることになるのだ。
ファーマーたちは浴衣やスディナ(*2)をはじめ、思い思いの服装だ。手ぬぐいとクバ笠、サングラスなどで顔を隠している。といっても、だれなのかはわかるのだけれど。
ホールに入ると、車いすなどに座ったお年寄りが待っていた。ここは特別養護老人ホームなのだ。職員の人たち、観光客なども見に来ている。はじめての本番なので、ちょっと緊張する。
私はハエミエンで、サンピキをやることになっていた。『ソール念仏節』は単純な動作の繰り返しである。しかし、出だしをどちらの手足でやるのか、私にはよくわかっていなかった。練習ではきちんと踊れる人の姿を横目でちらちら見ながら、すました顔でまねていたのだ。
南風見苑のサンピキは3人。私のほかに、オカヤンとサナエちゃんだ。オカヤンはアンガマをなん度も経験しているので、彼女を見ながらやればいいやと、残りのふたりは安心していた。ところが、
「太鼓! 太鼓がひとつ足りない!」
みんなが所定の位置につき、会場全体が、いまかいまかと始まりをまっているとき、小声のささやきが聞こえた。太鼓を打つ人は3人いるのに、肝心の太鼓がなぜか2つしか来ていないらしい。
「いいよ、2人ずつで」
だれかがいう。
「じゃあ、私は残るから」
とオカヤン。今夜2軒サンピキをやることになっていたオカヤンが残るのは順当だ。
「大丈夫だよね?」
念を押してくれるが、私は不安だ。しかしサナエちゃんは、
「うん、大丈夫」
といってすくっと立ち上がる。本当に大丈夫か?
三線が鳴りだした。先頭の私から歩き出す。オカヤンの方を見ながら自信なさげに足を進めているのがみんなにバレのではないか、と気がきではない。オカヤンが小声で「右、左……」と出す足のタイミングを直してくれる。ああやっぱり間違っていた。
しゃがんで踊りはじめると、サナエちゃんが視界に入った。あとは彼女の動きに合わせて動けばいいだろう。途中、それは違うんじゃない? というところもあったが、「ふたりが同じ動きをする」ということだけを守ることにし、最後までサナエちゃんに合わせて踊り通した。終わるころには、太ももや膝の裏に汗をびっしょりかいていて足がぬるぬるだ。とにかく終わってほっとする。
ほかの踊りも披露したが、長すぎるカカンをなん度も踏んでしまい、転びそうになる。カカンはしゃがむ動きに向いてないなぁ。
2軒目はシモザト家だ。
「うちは狭いよ〜」
と親戚の人がいっていたように、仏間は4畳半ぐらいしかない。そこに置かれたこたつに、おじいがひとり、ぽつんと座っていた。電気は入っていないはずだ。おじいの隣では、カバーになっている網がはずれ、羽だけの扇風機が細々と回っている。こぢんまりとした雰囲気がとてもよく、地元の普通のおうちも味があるなぁと思う。
ここのおうちは仏間の広さの関係で、サンピキ、太鼓がひと組だけ入って踊った。あとの人たちは駐車場の前で、止めた車のライトをたよりに小さく巻き踊りをする。仏間でふたり同時に踊るときは、扇がぶつかって動きにくそうだったが、おじいは最後までニコニコと喜んでいた。こちらまでうれしくなる。
次に訪れたのは、ヨーシーとマーちゃんの家、民宿パイヌカジだ。本日、ゆいいつの地元で、今日、最後の家ということもあり、みなリラックスしている。1軒目で泡盛、2軒目でビールとおつまみをいただいていたが、もう10時半過ぎ。私はすっかり小腹がすいていた。あとは、その他大勢の巻き踊りをすればいい、という気楽さもあって、もずくの天ぷら、サーターアンダギーと、ビールをいただく。いくら飲んでも全部汗になるので、ちっとも酔わない。
ここではほかの家よりさらに盛り上がり、練習にはなかった曲も飛び出した。家の人も民宿の人も入り交じってカチャーシーになり、私も踊る。なんだかすごく楽しいなぁ。と、そのとき、
「あ!」
っと思った。これまでへたくそだったカチャーシーの極意を、突然マスターした気がしたのだ。
「あれ? あれ? なんだか踊れるぞ!」
これまではヘタだから踊りたくなくて、でも踊りたいような気持ちもあって、恥ずかしそうに、ちょこちょこっとカチャーシーもどきをしてはすぐ引っ込んでいた。しかし今日は楽しい! 楽しいなぁと思って踊り、途中で手の力をふっと抜くと、なんだかウチナンチュ(沖縄人)のカチャーシーめいたものになっているではないか!
「うおぉぉぉ! カチャーシーができたかもぉ!」
心の中ですごくうれしくなって、さらに踊る。今日は私のカチャーシー記念日だ。
(*1)カカン: くるぶしまであるプリーツスカートのような白い伝統衣装。
(*2)スディナ: 袖の短い着物のような伝統衣装。丈が長いほど正装となる。丈の短いものはハッピのような感覚で着る。