8月18日(木) 「アンガマ・中日」 くもり

今日も午後は昼寝、練習、お風呂、ご飯、支度、集合だ。夜のアンガマを中心に1日がまわっている。家に帰るのは夜中のうえ、体も気持ちも高ぶっているのですぐには眠れない。日中、仕事のある人は昼寝もできないだろうし、ほんとうに大変だ。

今夜の1軒目はカンコウおじい、ジーボさんちのアラシロ家である。公民館にみんなが集まるのを待ちながら、ウシュマイ、アッパーのゴウくん、ミホちゃんは、なぜか緊張している。
「ねぇ、早く済ませようよぉ」
と嘆きのゴウくん。ミホちゃんも
「大丈夫かなぁ」
と心配顔だ。

どうしたの? とたずねると、
「アラシロ家は難しいらしいんです」
 という。なにがだろう?
「問答をふっかけられたりするみたいで」
 まさか方言で聞かれることはないと思うが、気の利いた答えを返さなくてはならず、不安になっているらしい。

 8時過ぎ、隊列を組んで、公民館から20メートルぐらいのところにあるアラシロ家に向かった。家に着くと、先頭のウシュマイ、アッパーが家の人になにかいわれている。鳴り物も自然にやみ、成り行きを見守る。しばらくすると、ゴウくんが
「撤収!」
 といって戻りだした。なんだなんだ?

「まだ早いから9時過ぎに来い、って」
 そうなの?
「おじいやおばあは、早くしてくれ、っていうから1軒目にしたのになぁ」
 もっと遅いほうがいい、という家族がいたのだろう。実際、アラシロ家の人々はちゃぶ台を囲んで夕食の真っ最中だった。こちらも驚いたが、先方もびっくりしたに違いない。とてもアンガマをはじめる状況ではない。

しかたがないので公民館で時間をつぶし、出直す。今度はびしっと片づけられた部屋にすぐにあげてもらえた。

ウシュマイ、アッパーが仏壇にお線香を上げ、『ソール念仏節』が始まる。ファーマーたちは部屋に入りきらないので、庭で円を作り巻き踊りをする。すると突然、
「違う!」
 と家の人が怒鳴った。
「ファーマーが庭で踊るのは祖納だ。干立のアンガマはそうじゃない!」
 どうやら、島外に住むアラシロ家の長男さんらしい。

困ったのは私たちだ。ファーマーも家に上がれ、というのだが、20〜30人はいるアンガマ一行が12畳かそこらの広さに納まり、かつ踊りができるのだろうか? 困惑しながら、とりあえず部屋に上がってみる。

再び三線が始まった。ファーマーが立ち上がり、ぎゅうぎゅうの部屋で巻き踊りを始めると、また怒声が飛んだ。
「違う! ファーマーは立たない」
座ってクバ扇を振るだけでいいらしい。

私たちが静かに腰を下ろすと、再度、気を取り直して三線が始まった。またいろいろご指摘があるのかと思いきや、『ソール念仏節』の間中、長男さんはけっこう満足そうである。曲が終わると、
「上等!」
とほめてくれる。
「さあ、遠慮しないでじゃんじゃん飲みなさい。アラシロ家で遠慮したら損するぞ!」
お言葉に甘えてビールをいただく。

緊張したのは最初だけで、あとは和やかムードだ。曲が終わるごとに、
「上等!」
とほめられ、カンコウおじいもニコニコしている。ギャグがさえていたのはジーボさん。『かたみ節』をゲンさんと私で踊ったとき。ゲンさんがなん度か派手に間違えると、
「流派が違う!」
 と野次っていた。

なんだ、心配ないじゃん、と思っていると、曲と曲の合間に、長男さんがミホちゃんに聞く。
「ンミー(*1)はなぜ歯がないのか?」
 来たぞ来たぞ。アッパーのお面には歯が1本しかついていない。さてミホちゃんはなんて答えるのだろうか。ドキドキしながら見守っていると、大まじめに、
「あの世では必要ないからです」

 そこにすかさずジーボさんが助け船を出す。
「ちっがーう! 上原に歯医者ができただろ。あそこでいま、歯形を取ってるといわんかい。もうすぐ上等な金歯がびっしーっと入ります、って」
 西表西部地区には歯医者がなかったが、つい先日、開業した。地元のタイムリーな出来事を織り込んだナイス切り返し。こういうユーモアのセンスを私も磨きたいものだ。

公民館にいったん戻り、次に訪問したのは、祖納のオオハマ家。ここはヨーシー、マーちゃんのお母さんであるカヨコさんのご実家だ。

 オオハマ家はすばらしかった。お座敷が広くてきれいなだけでなく、庭の向こうに新盛家が見える。築300年、文化財に指定されている茅葺きの家だ。昔の西表を目の前に感じられ、雰囲気がこの上なくいい。

オオハマ家についたとき、祖納のアンガマがお隣のナライ家に来ていた。ナライ家は歌に踊りに芸達者な人が多い家系で、きっと盛り上がっているのだろう。しかしオオハマ家も負けていない。マーちゃんにヨーシーがいるし、ヨーシーの妻のトモちゃんも踊れる。カヨコさんの踊りのレパートリーもすばらしい。

壮観だったのは、兄弟5人そろっての『御前風』。オオハマ家の3姉妹、2兄弟が全員で踊ったのだ。お店だったり、宿だったり、婦人部だったりと、普段は別の場所で見かける人が、みんなこの家の家族なんだなぁと思うと不思議な気がする。カヨコさんが嫁いだヤマシタ家だけでなく、オオハマ家の兄弟たちもやはり芸達者であった。

アンガマが盛り上がるかどうかは、その家の人のノリに左右される。まず、心づくしのおつまみが用意されていると、アンガマには「ああ、歓迎されているんだな」というのが伝わってくる。そして家の人が踊りを用意していたり、カチャーシーのときアンガマが誘うとすぐにのってくれると、延々と曲が続き、盛り上がる。よく笑ったし、よく踊ったし、よく飲んで食べたし、もう思い残すことはない、というところまで楽しんだところで地方が『ソール念仏節』の最後の2番を演奏し、宴がお開きになるのだ。

オオハマ家はまさに、ノリのいい家だった。そのうえ、途中から、隣に来ていた祖納のアンガマのファーマーが乱入し、さらに盛り上がる。プロレスの覆面をした人、大仏マスク、ヘンなおじさんマスクの人もいる。バレエのチュチュに白鳥の首をつけた宴会衣装を身につけたおじさんも視界に入ってくる。きゃー、楽しい。

宴が終わるとオオハマ家のおばさんが挨拶をした。
「先祖も大変喜んでおります」

帰りに隣のナライ家の前を通と、まだ宴が続いていた。いろんな人が入り乱れて踊っている。オオハマ家の宴会は1時間半、午前0時前には終わったが、こちらはなん時までやっていたのだろうか。


(*1)ンミー: 石垣ではアッパーをこう呼ぶ。


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