7月11日(月) 「西表なんかイヤ!」 晴れ

 東京に1カ月滞在していた。特別なことをしていたわけではなく、ごく普通の都会生活だ。ごく普通にトイレやお風呂が家の中にあり、夜中に隣の家のうるさいテレビを消しに行く必要もなく、ネズミやゴキブリ、蚊、ハエ、ヤモリ、カニが部屋に出ないマンション暮らしである。

梅雨といわれていたが、あちらはわりかし過ごしやすい気候で、雨はそれほど降らない。ちょっと暑い日もあったけれどクーラーなどもてきとうに使い、快適な生活だった。こんなことでは帰ってから西表の暑さが思いやられるなぁ、とうすうす感じてはいた。

西表に帰る2日ぐらい前、夢を見た。イラクのあたりだろうか。中東のどこかに住んでいて、これから戦場に行くことになっているのに荷物がなかなかまとまらない。もたもたしていると、外からいかりやチョーさんに、
「もう行くぞ!」
 とせかされるというものだ。

 自己流で夢分析をしてみる。“戦場”は西表のことだろう。“荷物がまとまらない”のは、帰る心の準備ができていないということか? そうなんだろうなぁ、きっと。

夢には続きがあった。ゴーヤの30年モノの苗を買わないかといわれ、見たら大変立派なガジュマルのような木だったので買うことにした。1万円といわれたが、「お金は前払いだけど引き渡しは戦後ね」ということだったので、戦争中爆撃にあってこの木が死んでしまうかもと思い、だったら5000円にして、と値切ろうとしている夢だ。

こちらはどう分析したらいいかわからない。でもなんとなく、私っぽい夢だなぁと思う。ちなみに、ゴーヤは1年生なので30年モノというのはありえない。

さて、重い気持ちで石垣に戻ると、暑いこと暑いこと。もうたまらん。まず、空港からタクシーでスーパーに直行。ふだんは離島桟橋まで行って、そこから自転車を借りて買い物に出るのに、とてもじゃないが、歩くのも自転車もムリという気がした。

買い物を終えると船に乗り、西表へ。あーあ、帰ってきてしまった。まだ東京にいたかったのに……と思いながら自分の部屋に入ると、あちこちにカビがベルベットのように生えている。私がここを出てから洪水のような日が続いたため、そのとき育ったのだろう。すだれとか、木じゃくしとか、木や竹の箸など、みなカビているではないか。しかしもう驚いたり嘆いたりせず、淡々と洗う。

ネズミがかじってダメにしたココアドリンクやコンソメを容器ごと捨て、アリが浮いている上等黒酢は茶こしでこし、ネズミから守ろうとケースに入れておいた塩や砂糖は、ふたを開けてネズミがケースに入りこんだため、派手に食い散らかされた後始末をする。家に戻って最初の仕事がこれとは、やはりここは戦場に違いない。

ネコが部屋を荒らした跡はなかったが、ネズミやヤモリのふんはそこらじゅうに落ちている。衣装ケースをあけると、中の衣類がカビくさかった。350mlの除湿剤を入れているのにおかしいなと思ったら、中の水が、「お取り替え目安」のラインをいつの間にかはるかに越えていた。

ちょっと驚いたのは、冷蔵庫の電気が2つとも落ちていたことだ。部屋を出るとき、滞在していた友人に「2つある冷蔵庫のコンセントを1つだけ抜いて帰って」と頼んだのに、2つのコンセントがつながっている延長コードのコンセントを1つ抜いてしまったらしい。

腐って異臭を放つものや虫がわいた物体が冷蔵庫からぞろぞろ出てくるかと恐怖だったが、極限まで入れるものを減らしていたので被害はほとんどなし。薬とバターの箱がカビていたのと、ショウガやゴーヤの種が腐っていたのと、お米の味が落ちていたのと。それぐらいだ。

それにしても暑くて不快である。体が暑さに慣れていないので、ものすごく汗が出る。冷たいものをガブガブ飲んで体を冷やしてしまう。

電話で友人に、虫も寄らない乾いた東京の部屋がいい、クーラーがほしい、と愚痴ったら、
「堕落したな」
 とばっさり。そう、ふた夏西表で鍛えても、ちょっと都会に戻れば元の私に戻ってしまう。

夕方、汗びっしょりの服を着たまま、すたすた海まで行って、泳いだ。日常のこういう気持ちよさは、東京にはない。


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