7月16日(土) 晴れ一時雨
朝、目覚めたら、電話のランプが点滅していた。留守電にメッセージが入っているようだ。寝るときは呼び出し音が鳴らないようセットしているので気づかなかったのだ。
「あ、チナミちゃん、おはよう、ムカイです。9時から臨時役員会があるので公民館に来てください」
ヒロミさんからである。たっぷり寝た気がするけど、いまなん時だろう? 時計は、9時20分。寝起きの顔のまま、公民館にすっとんでいく。
事務所に入るとナリコさんがいった。
「豊年祭、延期だってよ」
なんでも、40m級の台風がまともに石垣地方を直撃するらしい。
「新聞社にも、延期するっていっておかないとな。明日の新聞に載せてもらおう」
とジーボさん。しかし、18・19日の豊年祭が28・29日に延期になったというお知らせは、西表では19日に配られた新聞に載ることになる。船が止まり、新聞が欠配となったからだ。
そうこうしていると、事務所の電話が鳴った。
「はい、そうです。延期です。はい……よろしくお願いします」
応対していたヒロミさんが電話を切る。
「そば屋だって。そういえば、そばを注文してたじゃない。延期ですか、って向こうが心配して聞いてきた」
ムラングトゥの作業のあと、みんなで食べるそばを頼んでいたのだ。祭が延期ならムラングトゥも延期になり、大量のそばを持てあましてしまう。お客様にお出しする折を止める手配は、もう済んでいるようだった。
家に帰るとさっそく台風準備である。
三好さんはまず、港に船を揚げに行く。海人やダイビング業者は、大きな船を漁港に陸揚げし、ロープやワイヤーで固定。小さな船は満潮時にマングローブへ運び、マングローブの間につなぎ風をよける。マングローブは小舟にとって、なかなかいい避難所だった。
彼が戻ると、ふたりで協力して外に置いてある飛ばされそうなものを屋内にしまう。私は手作りのポストと、傘立てにしている割れたツボ、お宝のサバニの板を部屋へ。家の周りになんとなく置かれているいくつものイスは、空室になっている部屋に。さらに三好さんは、風圧がかかりそうな日よけを巻き上げトタン屋根の根元にロープで縛り、そのロープは下にたらし、地面に置いた大型バッテリーに結んだ。
また、家が飛ばされないようにと、三好さんはどこかから拾ってきた消防ホースで家と車をつなぎとめる。「ブロックの上に載せてあるだけ」という家が、車につなぐぐらいで飛ばされずにすむとは思えないが、ほかにいいアイデアもなく、やらないよりはマシだろうとだまって見守ることにする。
作業をしながら三好さんが思い出を語る。
「昔、大原にいたころ、台風の目に入って無風状態になったとき、みんな家から出て、だれそれの家のトタンが飛ばされた、とかいって騒いでたよ。そしたらそのあと、ものすごく大きな台風になって、大変だった」
そんなこともあったのか。
「40m級のが来るのは久しぶりじゃないか? 時速30kmっていうから、それならあっという間に通り過ぎるけど、停電は間違いないな」
次に手をつけたのは畑だ。三好さんの畑からは収穫できる状態のカボチャとパパイヤを取り、私のヘチマとバジルも全部収穫。もうちょっと大きくしたかったが、このまま台風を迎えると、たぶん全滅だろう。最後に、車の窓を閉めると、準備完了。天気はいいし、風がちょっと吹いている分涼しくて、本当に台風が来るのか疑わしくもある。
「バカいえ。ここでこんなに吹いているってことは、海行ったら大変だぞ」
とニシザトさんはあきれ顔だ。
「もう出かけないのか? いまのうちに買い物に行っとかんと、店、閉まるぞ」
必要な買い物はなかった。収穫したパパイヤでサラダを作った。夜のデザート用にパインも切った。洗濯は済んでいる。もうほんとうに、台風が来て去るのを待つだけだ。
そうこうしているうちに、サワラとガーラが届き、
「せっかくだから、人を呼んできて食べよう」
と三好さんがいいだした。台風祝いのパーティか? ギイチおじいやナオコさんまでやってきて、5人でミニ宴会だ。実にのどかである。みんなこんなにヒマなのは、台風対策を終えて手持ちぶさたなんだろうなぁ。
雨が降りだしたのは夕方5時ごろ。それから1時間おきぐらいに、降ってはやみ、やんでは降り。雨よりも風の方が、力強い感じだ。
7月17日(日) 台風
本来なら豊年祭のムラングトゥをしているはずだが、今日は台風。それでも、午後の早い時間までは穏やかで、三好さんは庭にイスを出してのんびりしている。
「ほら、ちょっと来てみ」
呼ばれて出ていくと、バッテリーと日よけをつなぐロープにトンボがとまっている。
「昔トンボだな」
「それが名前なの?」
「昔はよくいたんだがの。いまじゃ天然記念物さ」
ほんとうに天然記念物かはわからないが、珍しいトンボではあるらしい。黒い羽がレースのようで優美だ。
今日、空の便は石垣発の全便が欠航。船も船浦便、大原便ともに欠航で、西表島は孤立している。閉所恐怖症の私は、こういう状況がなんとなくイヤだ。息苦しい感じがするのだ。それに新聞も郵便も来ないので、退屈でしかたがない。
夕方近くになると風が強まり、強風域へ。最初の停電は午後3時ごろ。すぐに復旧したので洗濯をする。蒸し暑いので洗濯物が大量だ。夕方からはまた断続的に停電である。
電気が止まると懐中電灯やろうそくをともすが、普段と比べてやはり暗い。なんとなく心細くなるので、せめてご飯はちゃんと食べようと、バジルとトマトのスパゲティを作る。停電でもガスが使えるのはありがたい。
夜、台風がいよいよ接近し、風速25メートル以上の暴風域に突入。雨はトタン屋根を激しく打ち、遠くで風がゴーゴーと低くうなり声をあげている。近くで木がざわざわして、折れた木がいつ窓から飛び込んできてもおかしくない感じだ。もしかしたら家がつぶれることもあるかもしれない。
パソコンで遊ぶこともできなくなったので、ベッドに寝転がり、懐中電灯の明かりで本を読んでいた。すると、なんだか眠くなるのだが、台風をすぐ外に感じるのでリラックスはできない。
雨もザーザー降っている。戸がガタガタいっている。風が強く吹くと、天井の断熱材がはずれてゴミが降る。それでもいつの間にか眠ってしまったようだ。浅い眠りの中で、ヘルメットも用意した方がよかったか? などと考えていた。