今日は白浜海神祭。干立婦人部は2000年から3年連続優勝で、昨年は準優勝。今年こそは優勝旗を取り戻さなくてはならない。
家を出るとき、空は微妙だった。晴れてはいるけれど、上空の半分は雲に覆われている。かろうじて天気は保つような、少ししたら雨が降りそうな。私のここ数日の最大の関心事は、ゲットウの乾燥である。迷いに迷った末、雨は降らないことに賭け、ゲットウは外に干して出かけることにした。ただし、もし降ったら台無しになる。
公民館でナリコさんを拾い、白浜に行く。現地につくと、海の向こう、山のあたりの空は真っ黒だった。
「こりゃダメだ」
あわてて家に戻る。人の流れと逆行して車を走らせていると、すれ違う干立の人は、
「どこ行くの?」
と不思議そうな顔を向けてくる。
「雨が降りそうだから、ちょっと家に」
といって出てきたのだが、ナリコさんは洗濯物をしまいに帰ったと思ったらしい。洗濯物ならぬれてもいいが、取り込みにいったのはかわいいゲットウちゃんだ。なにをやっているんだ、とわれながらバカらしい。でもゲットウが雨に打たれて黒くなるのはガマンできなかった。
海神祭はいつものように、安全祈願から始まった。職域対抗レースが終わると、残るは婦人対抗と、公民館対抗の2レースだ。
今年は去年以上に練習をした。人材も足りていたので、人を入れ替えたり、座る場所を変えてバランスをみたり。工夫を重ねることができた。はじめは重くて進みにくかったが、櫂がそろうにつれ、少しは波に乗るようになってきた。しかし圧倒的な速さは感じられない。それでも自分たちが早いのか、そうでもないのか、最後までよくわからなかった。
「やばいね」
隣に立ってレースを見ていた若いマサコさんが、にっこりしていう。
「最初は『出るだけでいいや』と思ってたのに、本番見てると欲が出るね」
確かにそうだ。負けたくない、という気持ちが1秒ごとに強くなる。
円陣を組んで気合いを入れ、サバニに乗り込む。今年は桟橋から2番目のコース。昨年優勝の白浜は桟橋からいちばん遠い船だ。昨年走った桟橋寄りのルートは、沖で潮が巻いているので走りにくいらしい。コース自体は桟橋から離れるほど有利だといわれているが、本当のところはだれも知らなかった。
「よーい!」
声がかかり、スタートのピストルが鳴った。
「ゆいさー」
前半分の5人が声を挙げる。
「ゆいさー」
後ろの人たちが声を返す。しばらくはほかの船を見ないで漕ぐことに専念していたが、ふと顔を上げると、白浜が少しリードしているようだった。
あとはもう、無我夢中。リズムを合わせて、とにかく声を出す。旗を回って直線に入り、少しするとスピードが出てきた。みんなの力がひとつに合わさった。白浜にぐんぐん追いついている。
「抜ける!」
と思った瞬間、ゴールのピストルが鳴った。
視界の前の方で、白浜は大喜びして水を掛けられている。
「ダメだったか……」
あとひとかきふたかきで、絶対、追い抜いていたのに。それだけこちらの進み方には勢いがあった。
「最後、速かったよね。あと5mあれば抜いたと思わない?」
前から2列目にいたユキちゃんに話しかける。
「いや、2mあれば違っていたと思うよ」
やっぱりなぁ。ほかの人もそう感じていたんだ。
干立のタイムは4分38秒。優勝した白浜は、4分37秒。なんと1秒の差だった。
このくやしさを心の底から実感するのは、表彰式でのことである。去年は準優勝でも、シャコガイやイカ、カツオなどいろいろもらえたのに、今年、海のものはなにもなし。1升ビン1本とティッシュ5箱である。一方、優勝した白浜婦人部は、お米だのイカだのカツオだのともらい放題だ。来年はくじ運も鍛えて、いちばん外側のコースをとるところから徹底しなくては。