1月19日(水) 「西表横断2005」 雨のちくもりくもり

今年も西表横断に行ってきた。毎年2月に入ると、春休みの大学生を中心に横断にチャレンジする人が少なくない。それがシーズンのスタートだ。

季節がよくなるにつれて観光客が増え、横断者も増加する。夏、山の中は暑すぎるし、ヒルは多いしで山歩きに最適とはいえないが、横断する人は多い。季節的にいちばんいいのはいまごろだが、冬の間あまり人が通っていないので、歩きにくかったりもする。

そこで、西表エコツーリズム協会などが主催して、この時期に毎年、横断道巡視と整備を行ってきた。例年はゴミ拾いと倒木の撤去などが中心だが、今年は特に、遭難防止と救助の連携を確認するため、大所帯で山に入ることに。

環境省の呼びかけに応じて集まったのは、沖縄県、沖縄森林管理署、竹富町、竹富町消防団、西表島エコツーリズム協会のほか、地元警察や海上保安庁など約30名。そうそうたるメンバーなので遭難の可能性はない気がするうえに、大勢だと気が楽だ。いちばんうしろをくっついていけばいいや、という気分。
「みんなの足を引っ張るのではないか」
 と不安で前の晩あまり眠れなかった昨年と違い、なんとかなるだろと開き直っている。

雨の中、浦内橋からボートで出発し、軍艦石からは歩き。日本の滝100選にも選ばれているマリウド、カンピレーの滝を越えると横断道入り口に着く。ここから先は入山届けを出さないと入れないが、それはあまり知られていないかもしれない。

沢づたいに歩き始めると、それぞれが担当の仕事を始めた。案内板の大きさを測り位置を地図で確認したり、外れかけたプレートをかけ直したり、現在位置を知らせる指標に番号を打ったり。指標班の人たちは、道しるべの上に数字の型紙を置き白いスプレーを吹きつけるため、紙を押さえる指先が白く染まっていて不気味だ。

救助する人をヘリで釣り上げるポイントや、台風で崩れた斜面を確認しながら進むうち、明らかになったことがある。
「ここ、なくなっている」
「あ、ここもだ!」

森林管理官のカシマさんが、あきれているのは、以前は存在していた植物が消えているからだ。珍しい植物をマニアが持ち帰ったり、ひどい場合にはインターネットで売られていることもあるらしい。持って帰っても、環境が違えば育たない可能性が大きいと思うのだが……。

全行程の半分弱、イタチキ広場までは意外と早く到着した。去年はここに来るまでひと苦労だったのに。行ったことがある安心感はすごいものだ。この分じゃ、けっこうラクに横断できるかもしれない。

と思った矢先、イタチキ川を前にしたら、自信が崩れた。雨で増水して川が深くなっている。
「状況によってはイタチキ川で引き返すこともあります」
と、朝いわれたのを思い出す。しかしみんな慎重に、でも危なげなく渡っていく。

今回は山のプロが多いため、ほとんどの人がスパイクつきの長靴をはいていた。多少歩きにくいが、スパイク長靴だとぬれないうえに滑らない。私はトレッキングシューズだ。これだと歩きやすいがぬれるし滑る。特に今日みたいな雨の日には、ただでさえ山歩きの基礎ができていないのに、もっとへっぴり腰になり、さらにぬれたりコケたり。最悪だ。

覚悟を決めて、川にずぶずぶ入る。川に渡されたロープをぐっとつかみ、そろそろ歩く。流れは急ではないが、油断するとすべって流される。渡りきるまで、私も周りの人もけっこうヒヤヒヤだった。

お昼を食べてさらに先に進む。ところどころで景色に見覚えがあった。間もなく、行程4の分の3ぐらいのところにある中間広場に出た。
「ここは去年はヘトヘトになってたどり着いたところではないか? 今年は余裕があるものだな」
とうれしくなる。私たちを応援するかのように、雨も上がっている。

 ところが、ここを越えたあたりから、急に疲れが襲ってきた。歩いても歩いても、400mごとにある指標にたどり着かず、残りの距離が減らない。みんなから遅れがちになり、ついに、私が所属するゴミ拾い班班長と最後尾を行くことになっているタイムキーパーが私につきあい、3人でみんなからワンテンポ遅れて進むことに。

 休み休み歩きながら、それでもなんとか出口付近までたどり着いた。この風景は確かに覚えている。
「この峠を越えたら出口ですよね?」
 弾んだ声で班長にたずねる。
「う〜ん……だったかな?」
この人は私より、よっぽど西表の山を知っている。そういうエキスパートがはっきりものをいわないときは大抵“ノー”なのだ。

問題の峠を越えた。しかし出口はなかった。班長さんは知っていたのだ。ただ「違う」と否定できないせっぱ詰まった雰囲気を、私が醸し出していたのだろう。

出口にたどり着いたのは、歩きはじめてから約8時間後。特別の許可を得て迎えの車に来てもらったが、通常ならここから2時間かけて、舗装された道を集落まで下りなくてはならない。「西表は8時間で横断できる」という定説に惑わされ、そこから逆算して出発し、日没に間に合わず遭難するケースがあるようだが、正しくは、「西表の横断には10時間必要」である。

出口についたら、ゴムボート撤収班が「寒い寒い」といって待っていた。
「イタチキで1時間待ってたけど来ないし。ここでも1時間半ぐらい待ってたんだよ。すっかり体が冷えちゃったよ」
班長のモトモトさんがぼやいている。班員のヨーシーは背中を丸めて熱を逃がさないようにしている。

山の中に20年来放置されているゴムボートがあり、今回は思い切って撤収することになっていた。ゴムボートは20kgぐらいあるので、4人チームで先に行き、ノコギリで切って持ち出してもらったのだ。日ごろから山に入っている人たちは、同じ道のりを作業しながら5時間半で行くなんて、素晴らしい脚力だなあと驚く。

さて、私の仕事だったゴミ拾いの収穫は、ビニールテープ数本と傘の柄がひとつ。
「ゴミはあまりないなぁ」
 と班長さんたちといっていたのだが、先を行くゴムボート撤収班が拾ってくれていたのだった。なんて役立たずな私。

横断道出口付近には、展望台が新設されていた。そこから見た見渡す限りのマングローブ樹林がすがすがしいこと! 来年もこの風景を見に来たいものである。


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