今日は西表エコツーリズム協会でしめ縄作りの講習会である。手仕事はなんでも好きなので、ウキウキと参加する。
参加費500円を払い、エコツー協会の庭に敷かれたブルーシートにあがる。フーミン夫妻にカネコさん、ソウマさんなど、参加者に知り合いがいてうれしい。
「まずワラをひとつかみ取って、全体を水でしめらせてください」
アシスタントのノブちゃんが声をかける。私は欲ばってちょっと多めに取ったのだが、これが間違いの元だった。
しめらせたワラは三等分にし、そのうちの2束を取り上げ根元を合わせ、1つの束にする。左右のワラがうまく馴染むよう、少しずつずらして重ねるのがコツだ。
1つにしたワラ束の真ん中を足で押さえ、中心から右になっていく。お正月の飾りは神事と同じで右縄。生活に使う縄と神事の縄ではなう方向が違うのだ。欲ばってワラを太くしたせいで、実に扱いにくい。祖納、干立では豊年祭のとき各自が縄をなってハチマキにするので少しはできる。しかしどんなワラでも上手に扱えるほどの腕前はない。手のひらでよりながらなうことは断念し、1束ずつねじってはひねり、ねじってはひねりしてやっと20cmほど完成させる。
同じように左半分もやり、縄ができた。でもこれで終わりではない。しめ縄は3本のワラ束で作るもの。先ほど取り分けたワラがまだ残っているではないか。できた縄と残りのワラ束で、もう一度、縄をなう。苦労するが上等なしめ縄を作るためだ。
どうにかなった、と喜んだのもつかの間、今度はしめ縄をぐるっと輪にしてほどけないよう結ばなくてはならない。ワラの長さに対して太過ぎる縄ができたので、非常にゆわきにくい。私がやるとドーナツのような穴ができず、結び目のある1本の太い縄みたいになる。ワラは控えめに取るべし。これが来年への教訓だ。
輪っかもどきの縄ができたことだけでも十分満足だったが、次は飾りを作らなくてはならない。まずは扇から。沖縄でしめ縄に飾る扇は白地に金と赤で、縁に近いところは金、中心あたりは赤で彩られている。代々祖納に住む講師のノージさんによると、白は幸福を現し、金はお金、赤は血の象徴で人間や命、ということらしい。
まずA4の白い紙を縦半分に切り、金と赤の色紙をはる。作業をしながらフーミンがトーサンに話しかけている。
「トーサン、来年は金運と家族運、どっち重視で行く?」
「やっぱり金運じゃないか?」
すかさず答えるトーサン。周囲に笑いが起こる。
「じゃ、金を太めにはろうかね」
とフーミン。それを聞いたノージはあわてて、
「なにごともバランスが大事だよ。偏っちゃダメだよ」
と真顔で諫めている。なるほど。私も太めの金でいこうと思ったが、欲ばったワラで苦労したばかりなので、気持ち、細くする。
色紙をはりつけたあとは、真ん中から屏風状に折っていき、根元をのりで留め白い糸でゆわく。これで扇は完成。
次は木炭と昆布の飾りだ。小さく割ってある炭と二つ折りにした昆布を重ね、同じく金と赤い色紙をはった白い紙で巻き、ワラで真ん中をしばる。炭は食べ物を煮る大事な火種で、山の幸である。「たんと幸福を祈る」という意味だが、硬いので「変わらぬもの」「普遍のもの」でもある。「変わらぬ幸福」「かたい絆」への願いだ。
海の幸である昆布は、もちろん「喜ぶ」。二つ折りにするのは「喜びが幾重にもあるように」ということだ。木炭と昆布の飾りは簡単にできるが、しめ縄とほどよいバランスの炭を探すのが意外と難しい。手際よくやらないと、炭で黒くなった手で巻き紙を汚してしまうので要注意だ。
このあとは、白い紙で、「魔よけ」「お清め」の御幣を作る。すべてできあがったら、かっこうよく飾りつけて完成だ。私はこのほかに、松ぼっくりとウラジロをあしらってみた。かなりうれしい。
夢中になったやったシメ縄作りの後は、午後3時からアンツク作りの講習会。昔から西表では、アダンの根から繊維を取り、縄をなって生活用品を作っていた。アンツクと呼ばれる、漁で獲物を入れるのに使うカゴもそのひとつだ。
時代が変わり、手間暇かかるそういった民具を作る人はなくなった。それでもなんとか技術を伝えていこうと、やはりノージを講師にアンツク作りの講習会が開かれることになった。募集は限定10人。期間は3カ月。受講料は西表では破格の1万円だ。
しかしこんなに貴重な先人の知恵が学べる場所はほかにはない。1万円でも安いぐらいだろう。もちろん、手仕事好きでお稽古ごと大好きの私が見逃すわけがない。
本当は来週開講だったが、来週来られない人もいるうえに、今日は天気がいい。都合がつく人だけで材料を取りに行くことにする。
アダンが生えているところまで車で行き、借りた長靴で森に入る。アダンはパイナップルによく似た実がなる木だが、葉っぱの縁が根元から葉先までトゲとげしており、皮膚に当たると痛い。大抵引っかけて血を出してしまうのだが、今日は長袖・長ズボン。皮膚に被害はないが、衣類がトゲに引っかかり、ほんの数歩のところが踏み出せない。
「切るのは今年出たばかりのやわらかい根。ほら、これ。ほかのと色が違うでしょ」
とノージ。アダンの根は土の中にあるのではなく、枝の途中からガンガン出て、地面に向かって伸びている。ノージが指さした根は、まだ日に焼けていないような白っぽい色をしていた。そしてガクというのだろうか、帽子のような、イチゴのヘタみたいなものが先についているのだ。これが今年出た根の特徴。しかも、虫が入っておらず根の先が地面に着いていないものを選び出す。
「太くてなるべく長いものを切るんだよ」
といいながらノコギリを使っているノージにならって、カネコさんが聞く。
「これは?」
「はい、上等!」
「これは?」
とソウマさん。
「それも上等」
みんなどんどん切っていく。最初は見分けがつかなかった私も、だんだんわかってきた。となると、切りたくてしかたがない。
カネコさんにノコギリを借りて、アダンに向かう。
「これは?」
と私。
「いいねえ」
満足そうなノージ。
「これも?」
「そう。そこに生えてるの全部切っていいよ」
ひとり5本ずつ切ったところで引き上げる。材料を余らせてはもったいないし、取りすぎはよくない。
エコツー協会に戻り、取ってきたばかりのアダンの皮を剥ぐ。直径3〜4cm、長さ1mぐらいのアダンを左手に持ち、右手でカマの刃を立てて、アダンの真ん中あたりからすーっと引く。回しながら皮をむき、1本むけたものを見ると、
「なんかおいしそ〜」
ゴボウのようなウドのような、白い繊維のかたまりになった。カマはサトウキビの収穫のときにちょっとさわったぐらいないので、最初はこわごわやっていたが、慣れると大胆に皮がむけるようになった。皮のそばは繊維が硬いので、厚めにむいた方が上等な繊維が取れるという。
皮を取ったアダンは、断面を薄く、10枚ぐらいに裂いていく。
「えー、10枚も!」
そんなに薄くはできないが、努力する。アンツクバッグはほとんどちまたでは売られていない。たとえ売っていても相当お高いので、気に入ったバッグを上等に作るために頑張るのだ。
裂いた繊維は各自が家に持ち帰り、天日干しして乾燥させる。夕方から雨が降ってきた。明日は晴れてくれないと、水分の多いアダンの根は、乾燥させる前に黴びてしまう……。
参考文献:『八重山生活誌』(宮城文著、沖縄タイムス社刊)