今年も節祭がやってくる。夜は臨時総会だ。
節祭の10日前に開かれる臨時総会で、祭のことが決められる。当日のスケジュールやトゥーチと呼ばれるメインボーカル4人、だれがどんな芸をやるかがなどだ。それぞれの芸をだれが指導するかの割り当ても行うが、指導者には歴史と伝統を作り上げてきたおじい、おばあが就くことになっている。トゥーチは重役なので村を担ってきた人、あるいはこれから担っていく青年が選ばれる。
この日はトリチキといって、節祭の芸事の練習を始める日でもある。トリチキ、つまりトリツキ、この日から練習に取りかかるという意味だ。今日から毎日緊張感が増していき、ついに晴れがましい節祭当日を迎える。私は西表の暮らしの中で、この期間がいちばん好きだ。
総会には82名参加していた。出産や親の介護のために内地に行っている人もおり、この数字はほぼ全員、部落の人が来ていることを意味する。普段、まったく公民館活動に顔を出さない人も姿を見せていた。それだけ住民にとって大事な総会なのだ。
奉納芸能のひとつに狂言がある。みなの前に出ていき、身振り手振りを入れて威勢よく口上をいうのだが、口上は土地に伝わる言葉で行われる。
「外から来た人がいくら言葉をまねても、よっぽどちゃんと教えないと違うものになるよ」
ナリコさんが心配している。狂言は今年も20代、30代の青年がやることになった。若い世代の人たちはほぼ全員ナイチャーなので、方言が話せないばかりか耳にしたことも、あまりないはずだ。
「私もね、しばらく石垣に住んでいたから、敬語に自信がないわけよ」
たとえば目上の人に、「お元気でしたか?」と聞くつもりが、語尾を間違えると「元気だったか?」と聞いてしまうことになるらしい。
「怖くて使えないでしょ」
島で生まれ育った60代のナリコさんでも方言に自信がないとは意外だ。
「だってよ、子供の時はよ、方言札をぶらさげられたわけよ」
沖縄では方言が禁止され、学校で方言を話した生徒は罰として、首から「方言札」と書かれた札を下げさせられたのだ。いま70代以上の人は完璧に敬語が話せるが、60代以下ではあやしいらしい。
「“目が大きい”って方言でどういうかわかる?」
ナリコさんがクイズのように聞いてくる。なんというのだろう?
「“ミンタマー”っていうの」
へー、おもしろい。
「“まぶしい”は“ミーピカラーサ”」
ぴかっと光ったものを見ると目がまぶしい、という感じか。
「毒のあるムカデは“モーザ”。でも祖納では語尾を上げて、干立では下げる」
いろいろあるものなのだ。
このあたりの方言は、石垣島の川平の言葉と似ているらしい。ナリコさんがタクシーで話をすると、「お客さん、川平の人?」と聞かれるという。
「普通、獅子はオス・メスが対になっているでしょ。でも干立も川平も、公民館には獅子が1頭しかいない。つがいじゃないか、という話もあるけど」
言葉がつなぐミステリー。どこかに干立と川平の関係について調べた研究はないのかな。