10月9日(土) 「くつ」 晴れたりくもったり

 午前10時すぎ。月に数回バイトとしてかり出されるホテルのダイニングルームで、床の掃き掃除をしているときだった。

「ひっでーよな〜」
「知らないんじゃない? 教えてやろうか」
 という会話が玄関先から聞こえてきた。ヘルパーの男の子たちだ。

「どうしたの?」
 なんとなく近づいてみると、くつだった。玄関の内側に濡れたくつがずらっと並べてある。「外に干した方が乾くのになぁ」と、私も着いたときに思ったのだ。しかし違うらしい。

「これ、ゴミなんですよ」
「へ?」
「全部」
 昨日の夜までの3泊4日、修学旅行生が泊まっていた。それで人手不足になり私が呼び出されたのだ。その学生さんたちは今朝チェックアウトしていた。

「どうも先生がいってるみたいなんですよね、『濡れてもいいくつを持って行って、現地で捨てなさい』って。だって、ほら」
 数えたら、運動靴が20足。先生のものらしき黒い革靴が1足。泊まっていた生徒は40人だという。約半数がくつを捨てて帰ったことになる。濡れてもいいくつと捨ててもいいくつは違うと思うが、とにかく「濡れてもいいボロぐつでカヌーに乗り、帰りは捨ててくれば濡れたものを持ち帰らなくていいし荷物も軽くなる」という教えらしい。

「いったいどこの学校?」
 むっとして聞く。
「それが国立なんですよ」
 とヘルパーくん。
「どこよ」
「大阪教育大学付属高校」
 
 表に出にくい問題ではあるが、ただの観光でないなら、せめてもう少し勉強して西表に来ていただけないだろうか。西表にはゴミの焼却炉がなく、ほとんどのものが野焼きされている。ゴミ捨て場の風下になった家では、ゴミに火入れをするとくさくてたまらない。ダイオキシンの汚染も心配だ。ゴミ問題を憂う人はゴミを減らそうと、蚊取り線香を缶で買わず燃やせる紙パック入りの製品を割高ながら選んだり、リサイクルされない卵パックを気にして、段ボール入りの卵を共同で取り寄せていたりしているのだ。そんな島民の努力の一方で、修学旅行生がスニーカーや運動靴を大量に捨てていく。おまけに西表に来るのは今年で4年目だとか。

「ああ、もったいないなぁ。まだどうもなってないくつもあるじゃないか」
 奥から出てきたオーナーも、驚いている。
「でもなぁ、濡れているくつじゃ、人にあげられないし」
 離島である西表ではモノを大切にする文化が育っている。お古をあげたりもらったりするのは特別なことではないのだ。ただオーナーはこの手のことに慣れているのか、怒ったり嘆いたりせず淡々と、
「ゴミにするしかないな。捨てといて」
 とヘルパーくんに指示。大きなゴミ袋2つにくつは納められていった。

 修学旅行生さんたちは、ダイビングやカヌーをして西表の自然を満喫されたようだ。しかしこの豊かな自然が永続する保証はどこにもない。先生や学生さんたちの置きみやげも、西表の自然への脅威になりうるのだが……。

* 後日、学生たちを引率した先生からメールがあった。
「今回の『靴』の件に関しましてホテルの方々のお手を煩わせ、不快な思いを持たせてしまい、また結果的に島の人々への負担をお掛けすることになってしまい、誠に申し訳なく思っています。

西表のゴミ事情については、昨年の本校生も研究テーマで取り上げていることでもあり、もっと配慮すべきであったと今更ながら思っております。次年度担当者にはその点しっかりと申し伝えておきます。ご指摘有り難うございました。

 学校生活の中や授業の中で環境を取り上げることは多いのですが、机上の空論に終わることのないよう、心したいと改めて思っております。

私は、今年を入れて、三年連続で西表を訪れています。毎回、マグローブの森や、清らかな川や青い海に感動しています。この美しい西表の自然がいつまでも保たれることを心から願っております。

 来年もお世話になることと思います。島の皆様に、よろしくお伝えください。」


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