今日は踊りのウブシクミ(*1)。いわゆるリハーサルだ。「ぜひ見に来てください」と部落内で放送していたので、大勢来るのではないか。
先週の土曜にもらった薬が昨日で切れた。どうしようか迷うが、あまりに回復しないので、昼過ぎ、再度診療所へ。違う薬を出してもらう。午後は寝たり起きたり、ぐずぐず過ごす。こんなにカゼの抜けが悪いのは、踊りのせいではないか。練習し始めたころのストレスは相当なものだった。夜もよく眠れず、本番までの4週間、体が持たないような気がしていた。
舞台に出ないことになり気が緩み、それまで溜めていた疲れがカゼを引き起こしたのだろう。ひどく長引いているということは、それだけストレスが強かったのか。しかも治りきらないうちに練習に出る。気持ちが落ち着いてだんだん眠りへと向かう夜に、電気をこうこうとつけた場所で、なんにんもの人たちと踊りの稽古をするのだ。帰ってもすぐには眠れず、眠りに入るのは午前2時過ぎ。起きるのもお昼近くだ。まったく体のリズムが狂ってしまっていた。
夜9時、公民館に行く。思ったほどギャラリーは来ていない。女性ばかり2、3人というところ。公民館の役員とか、おじいとか、10人ぐらいは来そうな気がしたので「あれ?」という感じだ。
踊りのメンバーは仮の衣装を着ていた。脚絆の代わりに黒い長パンツをはき、その上にムイチャーを着てミンサー帯。本番の衣装ではないが、それなりにサマになっている。
「もう、みんなまだまだだよ。あと1カ月は練習しないと」
ナリコさんがいつものせっかちな口調で、こっそり私にいう。数十年の踊りのキャリアがあるうえに、合同練習以外にも昼となく夜となく自宅で練習してきた彼女は、求めるレベルが高いのだ。
「じゃ、そろそろ始めましょうか」
お客さんはもう増えないだろう、と判断したカヨコさんの呼びかけで、踊り手たちは位置につく。
「あぁ、胃が痛い」
キョウコちゃんが顔をしかめる。クミちゃんも緊張の表情をしている。
地方が三線を弾きはじめた。ナリコさんを先頭に7人が扇を構えてフロアに入ってくる。公民館の舞台は狭いので、舞台の下で踊るのだ。意外なことにナリコさんの扇が震えている。緊張しているのだろう。
踊りはよかった。とても合っていた。いままででいちばんいい出来だった気がする。
「先生に習うとやはり違うわね」
隣に座って見ていたタナカさんがいう。私はまだ、比較ができるほど公民館の行事で踊りを見てはいない。しかしもしかしたら、しろうとがしろうとに踊りを教え伝えていくうちに、崩れていった部分があるのかもしれない。
実際、干立では扇を寝かせて持つのが「基本姿勢」だったらしい。しかし今回、先生は、
「扇は寝かしたらダメですよ、かっこ悪いから。必ず立ててくださいね。そしてこれをいつも基本の構えとしてやってくださいね」
といっていた。長年のクセが抜けないおばあたちは結構苦労していたものだ。そういうちょっとしたことの積み重ねで、踊りがいつもよりあか抜けて見える可能性はあった。
「衣装、衣装。あとは衣装ね」
踊り終えたカヨコさんが明るくいった。衣装8割、踊り2割。衣装をつけ、舞台化粧をすればかっこうがつく。踊りの足りないところも衣装が補ってくれるだろう、ということだ。
リハーサル後、最終的な再度打ち合わせをして11時半に解散。次に踊るのは本番だ。
(*1)ウブシクミ:「大仕込み」ということ。