皇帝ラリーの間、洗濯するひまがなかったので、ホテルに着いてすぐコインランドリーに行く。ヨーロッパで経験するはじめてのランドリーだ。
ホテルで教えてもらった場所は、近くにもかかわらずわかりにくかった。それでもなんとか探し出す。店は奥行きが広く、30台以上のマシンが並んでいる。
予想していたことだが、表示はすべてフランス語だ。でも、コインランドリーはアメリカの大学にいたとき、寮でいつも使っていた。そんなに違いはないだろう。
まず、空いているマシンに洗濯物を入れる。マシンは大と小があったが、料金が安いであろう小を選んだ。ダイヤルを見ると、Couleur、Blanc et Couleurs、Laineなどと書いてある。色物、白物と色物、麻、と勝手に解釈し、もうひとつ想像もつかなかった”Synthetique”は無視することにして「40°Couleur」にダイヤルを合わせる(あとで調べたらLaineは「羊毛」、Synthetiqueは「化繊」だった)。マシンのメーカーはMiele。私の知らない会社だが、業界では大手なのだろうか。
料金表を見ると、ランドリーは6kgまでが3.5ユーロ。16kgまでが 7ユーロらしい。
「16kgってどういうこと?」
日本の家庭用洗濯機は、大型でもせいぜい7kgぐらいではないか。毛布とかなん枚も洗うのかなぁと思っていると、謎がとけた。
大型トランクを引きずり、両肩に大きなスポーツバッグをいくつも下げて、アラブ系の男の子が入ってきた。旅人かな? と観察していると、彼はスーツケースやバッグの中からあきれるほどたくさんの衣類を取りだし、最後には着てきたジャンパーまで脱いで、7つの洗濯機に入れた。
ああそうか、とアメリカ時代を思い出した。寮の隣の部屋に住んでいた子は、3週間に1回ぐらい、パンパンに膨らんだ巨大な袋を地下のランドリールームに運び、洗濯機を5台ぐらい使って洗濯していた。
「白物、色物、下着や靴下、デリケートな衣類とかに分けると、こうなるのよ」
と笑っていたけれど、アラブ君も同じような感じだろう。衣類を繊細に洗い分けたいわけではなさそうだが、洗濯はごくたまにでいい、というポリシーが伝わってくる。まあ、欧米は日本のように湿度が高くないから、洗濯物を放置してもカビたり臭くなったりしないんだろうな。
さて、ダイヤルを合わせたあと、お金を入れ、一瞬ためらったが扉を閉めた。ためらったのは、お金を入れたあとは一回閉めたら洗濯が終わるまでもう扉は開かない、という記憶があったからだ。でもちょっと心配だ。迷いながら扉を閉めたのできちんと閉まっていない気がする。カチッという音がしなかった。いわゆる半ドア状態。やはりもう1回閉め直そうと扉に手をかけるが、もう開かない。押し込もうとするが動かない。
「水が噴き出してきたらどうしよう……」
と心細くなって隣で回っている洗濯機を見たら、扉は同じような雰囲気である。どうやらこれで閉まっているらしい。日本のメーカーなら、きちんと閉まったときにはカチッと音がするよう設計しそうだよな、と思う。デジモノライターとして、取材で長らく家電メーカーさんにお世話になっていたせいか、すっかり日本の電化製品びいきになっている私である。
もっと困ったのは、このあと。洗濯機のスタートボタンらしきものを押したが、洗剤が出てこない。洗濯物を自動計量して適量の洗剤が下りてくることを期待していたのだが、質実剛健なこのタイプではできなさそうだ、と先に気づくべきだった。それに、洗剤の料金を入れていないのに勝手に洗剤がでてくるわけがない。
回りはじめた洗濯機を離れ、あわてて洗剤の自販機に向かう。しかし、なぜか洗剤が出ない。お金を入れ、ボタンを押しているのにだ。ここでもカップルに助けてもらい、やっと洗剤を入手。ちなみにカップルはフランス語しか話せないようなので、日本語とフランス語での会話(ジェスチャー?)だ。
「洗剤は0.5ユーロ分ほしいの? それとも1ユーロ?」
たぶんそう聞かれているのだと思う。
「この洗濯物の量だとだっちかな?」
とたずねたかったのだが、複雑すぎて断念。首を傾げてごまかしていたら、1ユーロ分買ってくれた。手間がかかってすみませんねぇ。
次は洗剤をどこに入れるかである。洗濯機の扉がもう開かない。このままだと、洗剤なしの水洗いということになるぞと心配していると、カップルの女性が洗濯機の天板の一部をパカッとあけ、2つある溝の両方に洗剤を入れてくれた。やはりこのままだと洗剤が洗濯機の中に下りない気がして、上から水を足す。でもそんなことまではしないでよかったらしい。ヨーロッパの機械もそれなりにかしこいようである。
45分後、洗濯機が止まった。ほかの人に比べて少ないとはいえ、こまごました私の洗濯物も6kg近くある。これを乾燥機まで持っていくのは一仕事だ。そのとき、いいものを見つけた。下にコロコロがついたプラスチックの箱が、用意されているではないか。どう見てもお手製のこの箱に洗濯物をガガッと取りだし、ガーッと転がして乾燥機まで行く。そうすればなんども往復する必要はない。生活の知恵だな。一体だれが考えて作ったんだろう。
洗濯で苦労した分、乾燥はスムーズにいった。お金を入れ、衣類を放り込むと勝手に重量を量ってくれ、回りだした。セッティングは高温だ。
乾燥させすぎると綿製品は縮むんだよ、と心配しているうちに、乾燥終了。ドキドキしながら取り出すと、9割方乾いている。絶妙だ! あとは部屋に干しておけば、部屋の乾燥も防げるというもの。
ハラハラドキドキだったけど、パリのコインランドリーは退屈しないぞ。