1カ月ぶりに西表に戻ったら、部屋全体が黴びていた。トマトの缶詰の空き缶に挿してある菜箸やしゃもじ、ビーチサンダルに長靴まで、白いもやもやっとしたものがついているな、と思ったらカビだった。これから食器や調理器具は、必ず洗って使わなきゃいけないだろう。
留守の間、友だちが10日ぐらいこの部屋に泊まっていた。少なくとも2週間前までは人が寝起きし、風を通していたのだ。それなのにこの惨状。週1で台風が来ていたというからなぁ。1カ月だれもいなかったら相当悲惨だっただろう。西表って、ほんとうに湿度が高いのだ。おまけに未だかつてないほど大きなネズミのフンらしき物体も見かける。この夏、部屋に出没する生き物との大バトルはなかったが、案外これから始まるのかもしれない。
計算してみると、ここ1カ月間で飛行機に乗っていたのは約63時間。バスは約25時間で車は約20時間。船は約3時間。電車だってけっこう乗っている。当分、移動はこりごり。石垣にさえ行きたくないぐらいだ。
まだ時差ボケがなおらず、夕方6時半から8時半まで寝る。電話で目が覚め、あわてて婦人会へ。ものすごく眠かったが、ぼんやりした頭で出席する。10月にある竹婦連の芸能発表会の打ち合わせだ。このために今日、無理矢理帰ってきたのだ。
竹富町では4年に1回、婦人たちの芸能発表会が行われる。今年は開催の年で、干立では『干立口説(ほしだてくどぅき)』を演目に選んでいた。キンセーさんが作曲した楽曲で、いちども踊られたことのない作品。石垣の舞踊研究所に頼み、振り付けを掘り起こしてもらい、今度の発表会がお披露目になる。両手に持った扇でダイナミックに踊るかっこいい男踊りだ。
その最初の打ち合わせが今日である。これまで一度も八重山の踊りをやったことがない私は、ぜひとも出たかった。
「毎日練習しないとだめだね」
ナリコさんがいう。
「はじめての踊りだからよ」
踊ること自体、私にとってははじめてだが、おばあたちにとっても、この踊り自体はじめてなのだ。
「簡単に考えちゃダメだよ」
私の目を見て、いつになく真剣にナリコさんがダメを押す。自信はないが、とりあえず神妙にうなずいてみた。