台風21号が来ているらしいが、晴れている。三好さんはほとんど寝たきりで、外に出てこない。さっきすれ違ったら驚くほどやせていた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
声をかけられ、きょとんとしている。
「頬がげっそりしているよ」
「目が死んどるかな?」
「目は……普通だけど、すごくふけた感じ」
それには答えず、ふーんという感じでトイレに行ってしまった。この1カ月、いろいろあったらしい。
まず、台風続きで漁に出られなかった。そのうえ、台風前に船を避難させようと陸揚げしているとき、プロペラを壊してしまったという。ついてない。
なん度か船を揚げたり戻したりしている間には、だれかに
「オマエの船を置く土地なんかない!」
となじられたこともあったらしい。あまり人付き合いのない人なので、だれがなんのためにいったかわからないが、そりゃ落ち込むだろう。
おまけに、イチローさんに誘われ工事現場の日雇いバイトに行った日、仕事の後のビールをもっとおいしくしようと、三好さんは水分補給を控えて働いた。その結果、ビールが効き過ぎ体調を崩し、ダウン。バイトもそれっきりになってしまった。やろうとすることがすべて裏目に出ることでさらに嫌気が差し、高校野球とオリンピックがおもしろすぎたこともあり、引きこもりになったという。そして私が戻ってからもテレビは24時間つけっぱなしだ。
「三好さん、お酒飲んでカップラーメンばっかり食べてるの。大丈夫かな」
マユミちゃんが心配そうにいう。そういえば三好さんのゴミ箱には、食べ終わったカップラーメンの容器がいくつも転がっている。高いのになぁ。きっとなにも作る気がしないのだろう。
さえないのは三好さんばかりではなかった。いつ見てもベロベロに酔っているムラオさんは飲酒運転で捕まり石垣へ。やはり悪友のニシザトさんは水中銃で家主を撃った(けど当たらなかった)らしく、やはり石垣の警察へ。みんなどうしちゃったのだろうか。
「庭の草むしりもしなきゃいけんなぁ。またダイコンとシマナーを植えましょうね」
畑を眺めながらタバコを吸い始めた三好さんが、ぼんやりいっている。畑の心配をするぐらいなら大丈夫。そのうち復活するだろう。
夜は8時半から踊りの稽古。今日が初日だ。お師匠さんが踊っているビデオを見ながらマネして踊る。しかしぜんぜんできない。厳しいヨシコちゃんによると、私は立ち姿、扇の持ち方からしてなってないらしい。
「難しいわ。できるかしら」
ノブエさんがおっとりという。しかしおばあたちの「難しい」はあてにならない。さんざんいろいろな踊りをやっているので基礎が違うのだ。ゼロから始める私がそれを聞いて安心してはいけない。
「ここがいつもとちがうね。反対に回るからよ」
おばあたちには「いつもの曲」「あの踊り」という身についた基準がある。その基本をアレンジして組み立て直すだけなので、おぼえるのも早いはずだ。
おばあたちの踊りは、師匠のような若い人と比べるとメリハリとか切れに欠けるが、独特の味があった。動作すべてがゆるゆるっとつながっていて、つかみどころがない。見ているとそこがなんとなくいい感じに思えてくるのだ。
7番までの歌詞をおぼえて、1番ごとに違う振りつけの手も足もちゃんとやって……全部できるようになるのはいつのことか。