きのうの夜、寝ていたら電話が鳴った。時計を見ると12時半。
「チナミさん、隣のマユミです」
「あ……うん」
寝ぼけてそんな返事をしたと思う。
「遅くにごめんなさい。部屋にハブがいるの。おっきいの」
「ハブ?」
まだピンとこない。
「頭が三角なの。ハブだよね? 遅いから三好さん起こしちゃ悪いよね」
いや、大丈夫でしょ。非常事態だもの。
三好さんと一緒にマユミちゃんの部屋に行く。
「こりゃすごいな」
と三好さん。どれどれ。
「うわっ」
背筋がぞくっ。そして鳥肌が立った。流しの下に、想像以上に太くて長いハブが、頭を向こうにして、体を少しくねらせ横たわっていた。
「どうしよう、どうしよう」
うろたえるマユミちゃん。ホテル勤務の彼女は、遅番だと夜中の12時ごろ帰ってくる。いつものように手を洗い、さあ着替えようとしたとき、流しの下の異物に目がとまった。
「なんかいる! と思ったらハブだったの。もう怖くて怖くて」
退治用に、とトンク状の火箸片手に現れた三好さんだったが、ハブのあまりの迫力に、
「これじゃかえって危ない。警察を呼ぼう」
なんでも、警察には特別な捕獲器があるはずだという。
110番でつながった石垣の八重山警察に事情を説明すると、白浜の駐在さんを呼んでくれることになった。
マユミちゃんがしんみりという。
「私、ヘビをよく見るの。泳いでいてもウミヘビによく会うし。メゾン三吉に来てからも、これで2回目だし」
え、ここでも? 私は一度も遭遇したことないけど。ヘビ好みの女って、いるのだろうか?
「ハブが出たんですか?」
20分後、パトカーで現れた駐在さんは警棒を持っていた。
「特別な捕獲器はないらしいよ」
マユミちゃんが小声で教えてくれる。大丈夫だろうか。
「そんなに大きくないですね。中ぐらいかな」
そういいながら部屋に上がった駐在さんだったが、頭の方からハブを見たとたん、
「うわ、大きいなぁ」
ああ、やっぱり。これはだれが見てもビッグサイズなのだ。
「こっちからつつきますから、下に出てきたら逃げないようにしてください」
駐在さんの音頭でハブ退治が始まった。逃げたらまた部屋に上がり込むかも知れない。長屋の宿命で、次は私か三好さんの部屋かも知れない。なんとしてもしとめなければ。
駐在さんが警棒でハブをつつく音が聞こえる。
「そっちに降りてった!」
という声を聞いた三好さんが、スキを土になん度も突き刺した。ひえ〜と怯えきっている私の横で、マユミちゃんはケータイで電話をしている。
「部屋にハブが出たの。ハブ退治の名人とか知らない?」
「しっぽを捕まえました!」
三好さんがいうと同時に駐在さんが部屋から出てきた。警棒をなん度も振り下ろす。タン、タンと土を叩く音が響く。
「もう大丈夫。やっつけました」
安全宣言を出した駐在さんに、みんなでお礼をいう。三好さんが火箸を渡すと、ハブをつまみ上げてくれた。うわっ、1.5mぐらいある!
「泡盛にでも漬けますか?」
と聞かれたが遠慮することにした。ハブ酒はおもしろそうだけど、洗ったり切ったりができそうにない。結局ハブはお米のビニール袋に入れられ、厳重にガムテープで封をされ、パトカーで連れられていった。バイバイ。
今朝、三好さんは早起きをして、ヘビが入りそうな穴をすべて塞いでいた。縁の下にハブの巣が……なんてことがなきゃいいけど。