「おい、台風だぞ」
昨日、三好さんにそういわれた。覚悟していると、昼間、しだいに風が強まり、夜はもっと強風に。しかしなんとかしのいだ。
「おはよう! 台風行ってよかったね」
三好さんに声をかける。
「なに、これからだぞ」
なんだ、去ったんじゃないのか。
そんな会話で始まった1日だったが、しだいにコトの深刻さを知ることに。バイト仲間の青年が、今日、島を出るといっていたのでバイバイしに行くと、ホテルの庭からすっかりイスやテーブルが片づけられている。おまけに玄関はカギを閉め、裏からしか入れない。
「あら、彼はもう出発したわよ。船は出ないけど大原に行くんだって」
ホテルのおかみさんはあっさりいった。船が出ない? バイト仲間がすでに出発していたのもショックだったが、船浦も大原も欠航しているのは、私が島に滞在中はじめてのことだ。
「そんなに台風、すごいんですか?」
「うん、直撃しそう。ヘタすると、3日ぐらい閉じこめられるかも……」
「3日も!?」
昨日までは「沖縄本島に向かっている」とニュースでいっていた。西表には来ないはずだった。でも大事を取って宿泊をキャンセルし、1日早めに島を出ようとしているお客さんがなん組もいて、
「慎重だなぁ。そこまでしなくてもいいのに」
と思っていた。しかしいまとなれば彼らの判断は正しかったのだ。
昨日、庭のナーベラを収穫した。今シーズン最後のナーベラになるだろう。これをおいしく料理するため、豆腐を手に入れる必要があった。
「船が欠航しているなら、早めに買った方がいいな」
そう思い、1軒のスーパーに行った。
店内はいつもより人が多く、豆腐は売り切れだった。冷蔵庫の中にいくつかあるにはあるが、すべてお取り置き。つまり予約されたものだ。野菜もほとんどない。
「出遅れたか!?」
あわてて別のスーパーに向かう。
この店は明らかに混んでいた。まだ午前10時前だというのに、通常の混雑時の倍ぐらいお客さんがいる。豆腐はやはり売り切れ。揚げ、漬け物などの棚がガラガラだ。パンはほとんど残っておらず、お弁当もなし。カプラーメンにそうめんやうどん、スパゲティなどの乾麺が品薄になっている。
「あらー、ひと足遅かったのね」
こうなったら、西部にあるもう1軒のスーパーにも行くことに。ここも珍しくレジに列ができていた。やはり豆腐はなし。
「台風が来ているっていうから、私も念のため牛乳を買い足しに来たの」
ばったり会ったカネコさんが教えてくれた。しょうがない。今日は豆腐をあきらめよう。
ナーベラーを使わないとなると、今日食べる野菜がない。畑のネギも、もう終わっている。干ばつ気味でひからびてしまったのだ。
そういうとき、頼りになるのはイチローさんである。おうちに寄ってみる。
「イチローさん、いま野菜がないからパパイヤもらいに来た」
魚と野菜は買わずにもらう、というポリシーなのだ。
畑にいたイチローさんは、
「いいよー」
といって、家からビニール袋を持ち出し、1本のパパイヤの木の下に立った。イチローさんが見上げたところにたくさんの実がなっている。
するとイチローさんは、おもむろに幹に傷をつけはじめた。パパイヤは
「メキメキッ」
と音を立て、真ん中から倒れてしまった。あのままじゃ実が取れないし、幹を切ってもまたすぐ生えてくるからだろう。
「はい」
渡された袋には、11コのパパイヤが入っていた。
「ねえ、イチローさん、このネギもらっていい?」
ネギの青い部分だけが、大量に足下の畑に放置されている。芽を出させるため、白い部分だけを今朝、移植していたらしい。
「いいよー、上等なとこだけ持っていったら。三好さんと隣の子にもあげて」
こうしてネギもゲットだ。
「イチローさん、バンシロー、台風で落ちたらちょうだいね」
さらにおねだりする。
「いいよー。あとで持っていくから」
ちょっとやりすぎかしらん。
家に戻ると、ちょうどお昼。豪雨が降り出した。いよいよ台風の本番だ。