今日は午後3時から6時まで、マンゴーの袋かけのバイトをすることにした。キビ刈り、ホテルの厨房に次ぐ体験バイト第3弾だ。
マンゴーはいま色づきはじめていて、来週あたりから出荷が始まる。青リンゴのような緑色が、上の方からじわっと赤味を帯び、次第にスモーキーなプルーン色に変わる。そのころを見計らい、ひとつひとつの実にネットや袋をかけ、口をとめるのだ。
さらに熟すと、マンゴーから白っぽさが消え、色鮮やかな赤リンゴのように変身。そうなると、ほぼ完熟。枝から離れ、袋の中にポトリと落ちるのは時間の問題である。
こうして自然に落ちた実は、完塾している証拠。地面に落ちると実が傷むので、袋をかけて受け止める仕組みだ。フーミンはこの色の変化を、
「最初は国光、次にプルーンになり、最後は紅玉」
といった。非常にわかりやすいたとえだ。
今回のバイトは住吉のケンボー兄さんのハウスである。フーミンが毎日手伝っているというので、半日だけ体験させてもらえないかとお願いしたのだった。
ハウスの中にはフーミンと私だけ。どこからかネットと針金を持ってきたフーミンは、袋かけの要領を説明してくれる。このハウスの雇われママみたいだ。知らない人が見たら、オーナーの若奥さんだと思うだろう。それぐらい任されているし、自由自在に行動している。
ウエストポーチに、夏みかんネットのような白い袋と針金の束を入れ、別々の木に向かう。最初はどの実も同じ色に見えたが、慣れてくると熟し方の違いがわかってきた。プルーン色のやつに下から袋をかぶせ、枝のところで針金を止める。心配なのでちょっと引っ張ってみたが、ネットは動かない。これなら実が落ちてもちゃんと受け止められるだろう。
外から手の届かない場所の実は、幹のそばに入って作業をする。台風でも実が落ちないよう枝はヒモで釣りされ固定されているので、ひもをかいくぐり、中に入るのは一苦労。
「流氷ダイブの要領で」
とまたまたフーミンはなるほどなことをいっているが、葉が密集する幹のそばは蚊も多く、耳元で「ふぃ〜ん」と羽音を聞かされると、逃げ出したくなる。
ケンボー兄さんのところは白いネットを使っているが、かぶせるものは、それぞれの農家で違うようだ。ヒコさんのところは昨年、口に針金がついた白い紙袋を使っていた。ここの隣のハウスでは、同じネットでも袋状の四角いやつ。また上下を同じように熟させるため、実の上に紙の笠をかぶせているところもある。実と実がくっつくとそこだけ色づかないので、クッション材を挟んで光をまわしている工夫も見られる。それぞれの知恵が感じられ、実におもしろい。
「今年は那覇のセリに出したいからね。去年までうちも紙袋だったけど、外から色づきがよくわかるこのネットに変えたんだ」
いつのまにか到着していたケンボー兄さんが教えてくれる。
ゆうぱっくでの発送なら、消費者の手に届くまでせいぜい2、3日。でも市場を経由するともう少し時間がかかる。完熟ではなく、7割ぐらいの熟成で収穫するのがいいらしい。
セリにかけると高値がつく可能性がある。直送であれば値段が決まっており、相場は1kg2500円。セリだと市場に集まるマンゴーの数や質により日々値段が変わるが、当たると儲けが大きいという。なんだかギャンブルみたいで怖いが、そこがおもしろいのだろう。
「宮崎なんか、5月に出荷するんだよ。沖縄が始まる前に出さないと売れないからね」
気温が高い方がマンゴーが早く穫れるから西表は有利と思いきや、沖縄本島も同じころに出荷をぶつけてくるらしい。出始めの方がいい値がつくので、ボイラーを焚いてハウス内の温度を上げ、出荷時期を早めるのだ。
ケンボー兄さんからの差し入れのパイン棒(*1)を食べ終わると、また作業に戻る。ハウスはメッシュでできているため、中は案外暑くない。気持ちのよい風が通り抜けてゆく。無言で作業を続けるフーミンと私。虫が鳴き、鳥のさえずりだけがこだまする。この仕事も、悪くない。
だいぶ時間が経ったころ、フーミンに声をかける。
「いま、なん時ごろ?」
「5時45分です」
あと一息だ。
ちょうどネットがなくなったところなので、少しもらいに行く。
「材料のキリのいいところまで、やっちゃおうか」
フーミンは口に針金の束をくわえ、大工さんが腰から下げるお道具入れにネットを入れ、男らしく作業をしている最中だ。
「かなり急いで袋をかけたんですけどね。あまり進まないな」
とはいえ100本入りのネットの袋、5つめに突入したという。すごい。私なんて3袋を終えただけだ。
日がだいぶ傾いてきた。逆光の中マンゴーを見ると、全部がプルーン色に見えて困る。帰り際、青いまま落ちていた売り物にならないマンゴーをフーミンが捨てようとするのでもらってくる。これで漬け物にチャレンジだ。
(*1)パイン棒: 6分の1ぐらいの大きさのパインを棒に刺し、冷凍させたもの。