6月17日(木) 「ハーリー練習・1日目」 晴れ

沖縄では旧暦5月4日はユッカヌヒー(4日の日)と呼ばれ、豊漁と海の安全を祈願する爬竜船(はりゅうせん)競争、ハーリーが各地で行われる。西表でも白浜部落主催で海人のお祭り「海神祭」があり、ハーリーはメインイベントである。今年はユッカヌヒーが新暦の6月21日で、目前に迫っていた。

白浜でのこのレース、1チーム11人で事前登録すればだれでも参加できるのだが、毎年の行事であるだけに因縁の対決も含まれる。婦人会対抗レースの祖納VS干立、公民館対抗レースの白浜、船浮、干立だ。

婦人会対抗では、実は干立は4連勝している。毎年、祖納と接戦を繰り広げ、干立が勝ってきたのだ。少なくとも、私が見た去年は、大接戦の末に干立が祖納をおさえ優勝した。5連覇のかかる今年も絶対に負けられない。

そのため、練習は10日ぐらい前に始まるのではないかと予想していたが、意外にも直前の3日間だけ。今日17日から3日やり、あとは本番。まあ、みんな忙しいのでそんなものかもしれない。

このハーリーに今年はどうしても出たかった。

昨年、まだ東京と西表を行ったり来たりしていたころ、西表に戻ると、
「明日は海神祭だよ」
そう公民館長にいわれた。浜に行くと、海では20代、30代の女子がずぶぬれになってサバニ(*1)をこいでいる。船に熱いエネルギーの塊がどんと乗っかり、それがサバニを動かしているようだ。

「いいなぁ。私もあの一員になりたいなぁ」
 仲間に加わりたい気持ちと、あの伝統的なサバニを漕いでみたいという好奇心。来年は練習初日から参加して、絶対にハーリーに出よう! と決めたのだった。

日焼け防止の長袖Tシャツに短パンで、集合時間の6時半ちょうどに浜に出る。たいてい時間は守られないので、まだ集まっていないだろうと思っていたが、予想通り、来ている若手は数人。応援のおじい、おばあの方が多いくらいだ。しかし気合いが入っている私は気にせず、勝手にストレッチをする。

7時ごろ、だいたい人数がそろったところで船に乗る。乗り込むときサバニが揺れ、ちょっとびびる。こんなことで大丈夫だろうか。

船子の席は8列で、板が渡してあるだけである。サバニは前後が細身なので、先頭から「1人、1人、2人、2人、2人、1人、1人、船頭(*2)」という配置だ。なんとなく後ろから4列目の左側に乗り込む。前の人が座っている板に左足の裏を乗せ、右足を船底の桟で固定する。こうすれば踏ん張りがききそうだ。ヤコ(*3)と呼ばれる木製の櫂を適当に構えると、
「みんな、片手は柄の先、もう片手は柄の根元を持って!」
婦人部長のカヨコさんが持ち方を正してくれた。

ギマのおじいが船頭になり、沖にこぎ出す。
「ハイッ、ハイッ、ハイッ……」
声を合わせ、リズムを取りながらヤコをかくと、水がばしゃばしゃと腕や足にかかった。
「股を閉じろー!」
 おじいのひとことに、笑いが起こる。若い女10人、大股開きで必死にこいでいるのだ。

気をつけないと船体とヤコの間に指が挟まり、痛かった。それに、ヤコがすぽっと水面から抜けることがある。私はどうもうまくごげていないようだ。

 沖の、竿が立っているところをまわると、いつの間にか浜に戻っていた。夢中だったせいか、あっという間だ。すでに腕が痛い。
「みんな、全然こげてないよ」
船頭のすぐ前に座っていた干立出身のタヅコさんがいった。40代後半の彼女はいちばんのベテランだろう。
「それにリズムも速過ぎる。合ってない」
 ヤコがそろいさえすれば、ゆっくりかくほうがかえってスピードが出るらしい。

「こぐとき、指が船との間に挟まっちゃうんですけど?」
タヅコさんに聞いてみる。
「体を船の外に投げ出すぐらい、おもいっきり体を預けないと。でないとヤコが水に入らないよ」
行楽地で貸しボートをこぐ感覚ではダメなのだ。

「今度は前の人をちゃんと見て。櫂だけ見てちゃダメだよ」
 カヨコさんの音頭でもう一度船を出す。今度の船頭はカヨコさんの息子で20代半ばのヨーシー。民宿をやりながら海人も続けている地元出身の青年だ。

スタート直後からタヅコさんのアドバイスに従い、体重を船体の左にぐっとかけてみる。右に座った人も同じように体をもたせかければ、船は安定し、ひっくり返る感じはしない。体でこぐことをイメージしながらヤコをかく。確かにさっきより深く入り、ぐいっとこげる。指も挟まない。

「よいしょ、よいしょ……」
2回目はかけ声を「ハイッ」から、ゆったりめの「よいしょ」に変えていた。この方がリズムも合うようだ。

「さっきより、みんなずっといい」
浜に戻るとタヅコさんがいった。
「チナミちゃん、よくなってたよ」
ノブエさんも声をかけてくれる。
「本番も、もしここ(後ろから4列目)に乗るなら、旗をまわるときヤコを真下じゃなくて外にかいて。そうするとさっと曲がるから」
ヨーシーのアドバイス、忘れないようにしなくては。

応援がてら、浜では子供たちや犬が走り回って遊んでいる。浜に上がった私たちは、ずぶぬれのまま、夕日を見ながらよく冷えたスイカと麦茶をいただいた。明日も頑張るぞー。


(*1)サバニ: 沖縄地方の伝統的な船。元は松を使ったくり船だったが、後に杉材になり、現在はプラスチック製が主流。一見、小型、細身で頼りないが、安定性がよく、敏捷ですぐれた漁船である。海神祭では伝統スタイルの木の船が使われる。

(*2)船頭: 船の舵取りをする人。勝つも負けるも船頭しだい、ともいえる重要な役目。

(*3)ヤコ:「ヤフ」とか「ヤッコ」ともいう。

参考文献:『八重山生活誌』(宮城文著、沖縄タイムス社刊)


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