トリの公民館対抗レースが終わると表彰式である。いつも感心するのだが、島ではこういった場での賞品が大変実用的だ。婦人会対抗レースで2位だった干立婦人会は、イカとシャコガイを1箱ずつ、ビールとジュースも1ケースずつ、ティッシュ5〜6箱。公民館対抗で白浜、船浮に次ぎ3位だった干立公民館(男性のみ)は、シャコガイとビール、ティッシュをもらった。これを今夜の宴会でいただくのだ。
白浜港民会主催の祝賀会のあと、5時からブガリ直し(*1)。お料理上手で知られるムツミさんが今年は婦人会幹事なので、去年に以上に料理が凝っている。モズクの酢の物は1人分ずつシャコガイの殻に入れ薄切りのゴーヤをあしらい、シャコガイとイカお刺身にはゴーヤとパパイヤ、長命草の千切りをツマに。ポークランチョンミートとナーベラー(*2)の炒め物、魚や野菜のかき揚げ、ブロッコリーのサラダなどもある。準備を手伝いながら、もう食べたくてしかたがない。
宴が始まると、私のまわりでは「来年はどうしたら優勝できるか」という話題になった。
「でもよくやったわよ。たまたま2位になったけど」
カヨコさんがねぎらってくれる。
「船が悪かったさ」
離れたところでだれかがいった。優勝への決め手がないまま、楽しくおしゃべりは続き、料理は見る間に減っていく。
そのうち幹部の挨拶が始まった。なん人目かに、前公民館長のシオカワさんが立った。
「海神祭、お疲れさまでした。しかし私はひとこといわなくてはいけません」
祝いの楽しい席なのに。マジメなシオカワさんは、またオカタイ話をするのだろうか。
「今日、婦人会は2位でした。34秒差ですよ。2位と3艇分違うんです。『船が悪かった』『場所が悪かった』という人もいらっしゃいますが、私はそうじゃないと思う」
2位とそんなに差があったんだ? 私はなにを見ていたのだろう。
「海神祭、この干立は勝たなきゃ意味がないんです。500年の歴史がある祖納と干立が競う。干立は負けたことがないんです。それだけ重みがあるんですよ。80人足らずの公民会員のうち、内地から来た人がかなりの数を占めています。『干立に移ってきました。すぐ船に乗ります』じゃないんだ」
けむたいなぁ、という雰囲気が、なにを話すのだろうと聞く姿勢に変わった。
「海神祭、豊年祭、シチをやり、海神祭の中でも前乗り(*3)、副船頭、船頭(舵取り)と順に経験してやっと1人前になる。そうやって村のことを身につけていくんです。私はヨシオくん(ヨーシー)が船頭をやるのは10年早いといったんだ。経験が足りない。それなのにヨシオくんは「先輩、どうですか?」って、去年まで船頭だった私に聞きに来なかった。本部よりのあの赤のコースは、潮が巻いているところ。どのコースでも同じように舵を取ればいいというものじゃないんだ」
シオカワさんはお米を作り、冬はイノシシ狩りをするが、船も持っていて海にも詳しい。祖納、干立にはそんなおじいがまだたくさんいる。
「そうやって先達の技術や知識を受け継いで経験を積み、村の一員として誇りを培っていく。そうすれば自ずから普段の行動も違ってくるんですよ。干立部落の一員なんだ、という自覚が人間性を高めるんです。それぐらいハーリーというのは重みのあるレースなんです。2位で残念だけどよく頑張った、っていうんじゃ意味がない。勝たなきゃダメなんです」
いつの間にか場が静まりかえっていた。一呼吸置いてシオカワさんはこう締めた。
「ちょっと辛口でしたが、僕からは以上です」
しんとした会場から満場の拍手がわいた。特に若い人が共感しているようだ。
一方、ヨーシーはだまってうなだれていた。
「確かに僕は船の技術はまだ未熟だけど、選手と歳が近いからアドバイスを伝えやすくていい、ってことだったんだけど……」
60代、70代のおじいが船頭をするよりコミュニケーションがうまくいくだろう、と公民館長のジーボさんに任命されたのだ。
拍手がやむと、ジーボさんが立ち上がり、ヨーシーをかばうように大声でいった。
「シオカワさんの反省は間違っている。みんなよくやった!」
しかし、シオカワさんのスピーチほど共感は得られず、なんとなくスピーチは終わった。
そうなのか。海神祭に勝つことは、そんなに重みがあるのか。シオカワさんの話を聞いて、単に「頑張ろう!」というより、重みを自覚してもっとちゃんとやらなくては、と強く感じた。
干立のブガリが一段落すると、エコツー協会の打ち上げへ。若さあふれる東海大学の学生チームには及ばなかったが、職域対抗レースで2位と大健闘のエコツーチーム。平均年齢は高いのだが、パワーをスキルでカバーしたのだった。若さは失うだけだが、技術は積み重ねられるのがいい。
(*1)ブガリ直し: 打ち上げ、あるいは慰労会のこと。「疲れた〜」はこちらの言葉で「ぶがれた〜」というらしい。そこから「疲れ直し」→「慰労会」となる。
(*2)ナーベラー: ヘチマ。沖縄では繊維が柔らかいうちに収穫し、料理に使う。収穫しぞびれるとタワシとして使う。
(*3)前乗り: 先頭をこぐ人。