朝、5時ごろ目が覚めて、なんだか眠れなくなってしまった。そんなことが、たまにある。それでもベッドの上でねばっていると、
「オイ、カメが上がったぞ!」
三好さんの声がした。やっと6時過ぎだ。
「トドゥマリ(*1)!?」
とドキッとしたが、そうではないらしい。トドゥマリには昨年6回ウミガメが上陸したが、今年はまだ1回も上がっていないという。リゾートホテルが建った影響ではないか、ともいわれているが、はっきりしない。そのトドゥマリに、ついにウミガメ上陸か!? と思ったのだ。
「干立の浜さ。宝島に行く途中の」
犬のシロを連れて散歩していたら、ウミガメの這った跡を見つけたという。「いま行けば、まだ残っとるぞ」
さっそく自転車に乗り、見に行くことに。
うちから浜まで約1分。そこから5分ぐらい歩いたところに、V字の這い跡がくっきり残っていた。屋久島で見たウミガメの産卵を思い出す。夜で暗かったのだが、こんな跡を残してカメは海に戻っていった記憶がある。
跡を踏まないように、写真を撮る。海側から、山側から。近くに寄ったり全体を撮ったり。にわかカメラマンだ。這い跡の真ん中に1本筋が通っているのを見て、
「卵管がここに下がっているから、こっから来て卵を産んで、卵管を引きずりながらこっちに帰ったんだろう」
三好さんもプロっぽいことをいう。それにしても、こんな身近なところにウミガメが上陸するのだ。なんかすごいなぁ。
しばらくウミガメ談義をして、さぁ、帰ろうと歩き出すと、向こうからおじいがやって来た。
「ギイチだ」
と三好さん。
「カメのこといったら、卵食べるよ」
と私。ギイチおじいから「ウミガメの卵はうまいぞ〜」という話を聞いたことがあるからだ。しかし三好さんは、
「なに、いわなくても見ればわかるさ」
と私の忠告を聞かず、
「ギイチさん、カメの跡」
と、まだ遠くにいるおじいに大きな声で話しかける。
ゆっくりと近くまで歩いてきたギイチおじいは、這い跡を見るなり、
「これは卵、生んでない」
とそっけなく断言した。
「ここで遊んだだけ」
「なんでわかるの?」
適当なことをいっているのではないか?
「卵産んでたらもっと上等に砂かけて隠す」
這い跡から、卵を産んでいるならこのあたり、というのがわかるのだが、その場所がラフなままで、卵が隠されている気配がないというのだ。
「これはタイマイじゃあない。ミズガメ」
這い跡の上をざくざく歩きながら、さらにおじいは分析する。カメの体が、タイマイにしては小さいらしい。
「砂が乾いているから、上陸して4〜5日は経ってる」
しかし私たちのそばにある、大きな平べったい岩には、タイマイが上がったことがあるという。
ひとしきりカメの観察を終えると、もう飽きたという感じで、ギイチおじいは山の入り口あたりをしきりと見はじめた。干立の浜のすぐ後ろは山になっているのだ。三好さんは先に帰ってしまった。
「なにか探してるの?」
「ナバ」
とギイチおじい。
「なに?」
「キノコ。こっちの言葉で“ナバ”っていうさ」
生えてから1日か2日で腐るというナバ。けっこうおいしいらしい。
足が悪く、ゆっくりしか歩けないおじいと連れだって、のんびり浜を歩く。
「風が強いなぁ」
ふと足を止め、海を見ておじいがいった。
「なんでわかる?」
「沖で波が白く立ってるから」
確かにさざ波が立っている。
「雲の動きも早い」
なるほど。やるな、おじい。
「ガザミが海に向かって穴を掘ったら風周りが変わる、っていうの知ってるか?」
「知らない」
私はなにも知らない。
「季節の節目ってことだ」
しばらく行くと、岩を見ておじいがにっこりした。
「海から上がったらまずこれを飲んだんだ。うまかったよ」
その岩からは、水がわいているのだった。若き日のギイチ青年の姿が忍ばれる。いまはご隠居さん風情だが、海のこと、山のこと、なんでも知っているのだ。
沖縄地方は、昨日、梅雨が明けた。
(*1)トドゥマリ: 通称「月ヶ浜」。