5月18日(火) 「ヤンバルで茶摘み」 ふったりやんだり

出張で那覇に来たついでに、ヤンバルの奥に寄る。

昨年9月、はじめて本島を訪れたとき、奥まで足を伸ばした。自然がたっぷり残る環境も気に入ったが、いい出会いもあった。ここをたずねるのは3回目。奥の人たちとはご縁がある気がする。

那覇は早朝、雨が降ったがすぐくもりに変わった。レンタカーで奥まで向かう途中、大宜味の道の駅に立ち寄る。タピオカの揚げダンゴを買い食いし、ニューサマーという種類のオレンジ、ヤンバルクイナが描かれたとっくり入り泡盛、大宜味の手作り味噌、トマト、パインなどを買う。旅行中自分で食べるものと、ナゴのおばあへのおみやげと、西表に持ち帰るものと。車だと見境なく買ってしまうのが悪い癖だ。

宿に荷物を置き、2時ごろ交流館に出かける。今回奥に来たのは、取材をかねて茶摘み、茶揉みをするためだ。

奥はかつて沖縄きってのお茶産地だった。茶作りの始まりは1933年(昭和8年)。まだ貧しい沖縄に、温暖な気候に目をつけた国から、お茶の栽培が奨励されたのだ。

お茶は植えてから収穫までに、5年かかるという。沖縄のほかの地域はその5年が待てず、次々と栽培をやめた。ところが、山を抱く奥には林業があった。つまりお茶以外の収入があるため、その5年を辛抱強く乗り越えることができた。寒暖の差があり霧の出る奥の気候が、お茶栽培に向いていたことも幸いした。こうして奥はお茶の産地となり、一時は県内の茶の7割以上を生産。1kg9000円の値をつけたこともあるという。

しかしその奥も、いまは過疎に悩み、今年4月には中学が廃校に。作り手が減ったため、お茶の生産も最盛期の約20分の1しかない。そこで、お茶で村おこしをしようと、昨年から茶摘み・茶揉み体験ツアーを開始。今年はもっと力を入れてやるという。

 日本一早い新茶が採れる奥では、4月半ばに1番茶を摘む。1カ月後には2番茶、さらに1月経つと3番茶となり、10月半ばまでお茶が収穫できる。
「でもお金になるのは1番茶、2番茶ぐらいまで。だからそれ以降を一般に開放して、多くの人に奥のよさを知ってもらいたいなと思って」
 ツアーをひとり切り盛りする交流館のイトマンさんはいう。

 山の上にある茶畑では、2番茶の新芽が色鮮やかに育っていた。出荷用の収穫は先週終わっているのだが、私の体験分にと、少し摘まずに残しておいてくれたらしい。畑には本当に霧に包まれている。お茶をおいしくしている霧だ。
「これぐらい、取ればいいですよ」
 イトマンさんのマネをして、先から3枚ほどの葉だけを贅沢に摘む。慣れない私は1本1本摘んでいるが、プロたちはガサっと手のひらを動かすだけで、触れた部分の茶葉はきちんと摘み取れるという。すごいものだ。

2つのカゴがいっぱいになると、山を下りる。実際のツアーでは山道の上り下りも体験できるのだが、まだツアーシーズン前。山道が未整備なので今日は車だ。

交流館に戻ると、炭が用意されていた。もうひとりサポートしてくれるおじいが、竹筒で息を吹き込み火をおこしてくれる。実はこの炭も奥で作ったもの。昔ながらの炭焼き窯を2分の1のスケールで復元。炭焼き体験も行っているのだ。大手の資本に頼らず、こういった昔ながらの暮らし、伝統を自分たちで掘り起こし、少人数で体験してもらおうという姿勢は、すばらしいと思う。過疎に悩みつつ新しい試みをどんどん行っている奥には、頑張ってほしいものだ。

炭に火がつき、大鍋が熱くなったら葉を入れる。
「これでなん百グラムできるかなぁ」
 とわくわくしていると、
「いくらもできないよ。ほんのちょっと」
 おじいが水を差す。
「こんなにいっぱいあるのに?」
「でも水分がなくなるとかさが減るからね」
 夢を壊すようなことをいってくれるではないか。

 軍手を3枚重ねにした特製グローブをはめ、茶葉を天地返しする。しばらくすると、フレッシュなお茶の香りがしてきた。葉もしんなりしている。さらに続けていると、あら、ずいぶん減っている。

様子を見守っていたイトマンさんは、おもむろに茶葉を少しつかみ、耳元に持っていく。
「なにしてるんですか?」
「揉みに入っていいか聞いてるの」
 プチプチいっていたら、揉んでいいらしい。お茶とコミュニケーションしながら焙煎するのがおもしろい。

 すだれの上で手揉みしたあと、再び鍋で煎る。ていねいに、ていねいに煎ると、香ばしい香りがただよってきた。
「いいぞ。今日のはいいかもしれない」
 おじいがほめてくれる。
「そろそろいいかな」
 再びお茶に聞いて、むしろの上にあけた。ほんとだ。完成したお茶はちょびっとしかなかった。

 さっそく入れて試飲する。
「お茶の味はするなぁ」
 とおじい。
「色も悪くないんじゃない?」
 イトマンさんもほめてくれる。どれどれ。
「玉露みたいじゃないですか、これ!」
完全に親ばかである。

 ゆんたくしていると、近所のおじいが集まってきた。どこにでもいるごく普通の人たちのように見えるが、お茶を飲んだ感想は、
「お茶の味がするね」
とか
「香りもあるね」
 とか、コメントが専門的。さすがお茶どころだ。

イトマンさんが家から、ニッケイの葉を乾燥させてものを持ってきてくれた。その葉を1枚、茶葉に混ぜてお湯を注ぐと、ニッケイの香りお茶になった。なんだか優雅だなぁ。あー、やっぱり奥って、豊かなところだわ。


top