5月19日(水) 「恩納でソバ作り」 ふったりやんだり

 恩納に寄った。廃油石けん工場を見学するためだ。

 ここではミサコさんという人が、10数年前から廃油で石けんを作っている。ちゅらさ石けんというブランドだ。高温焚き込み法の廃油石けんは、ザイフェというドイツの機械で作られることが多い。でもミサコさんのところはザイフェを使っていないという。ほかにどんな方法があるのか、ぜひ見てみたいと思った。

石けん工場見学のつもりでいたが、ちゅらさ石けん工房を主催するミサコさんの活動は、それだけではなかった。5000坪の敷地で野菜を有機栽培し、ヤギを飼い、生ゴミを堆肥化し、廃油から石鹸を作る……。訪れる人に、自然とともに育まれた沖縄の暮らしを体験してもらい、その中で生育、死滅、分解、呼吸、生育という循環システムを学ぶ。廃油石けん作りは、自然の大切さを次世代に伝える活動のひとつに過ぎなかった。

そこで私もひとつやってみることにした。暮らし体験コースには、沖縄のお菓子、島ハム、卵油やリップクリーム作りなど、季節によりいろいろあるらしい。この時期オススメなのは、沖縄そば作り。4人の体験者に混ぜてもらうことにした。

沖縄そばは水の代わりに灰汁を使うのが特徴である。敷地の中で、殺虫剤などを一切かけずに育った木を燃やし、灰をとる。その灰に水を混ぜ、できた上澄みを水分として使う。

「沖縄が日本に復帰したとき、“沖縄そば”という名前は使ってちゃいけないことになったんですよ」
灰汁を粉に練り込みながら、ミサコさんが意外なエピソードを教えてくれる。

そば粉をまったく使わず、薄力粉(灰汁の代わりに重曹を使うときには強力粉)だけで作る“沖縄そば”は、こうして名前を奪われた。しかし「沖縄そばは“沖縄そば”としかいえない」ということで、その後商標登録し、名前が生き残ることになったという。歴史の陰にはいろいろあるものだ。

「あと、お豆腐ありますよね。復帰前、沖縄では水に入れずに売ってたんですよ。それも禁止になってね」
 型から出し、お盆の上に布をかぶせただけで売られていた島どうふは、「不衛生!」の烙印を押され、内地と同様、水につけて売るよう命ぜられた。しかし沖縄の人たちには納得がいかない。これまでずっとこの方法でやってきたのに、なにも問題はなかったのに、なんで水につけなきゃいけないの?
 
「ということで、あまりだれも守らなくて、ついには国が法律を変え、沖縄では水につけずに豆腐を売っていいことになったんですね。おもしろいでしょ?」
 たしかにおもしろい! 

実はもうひとつ愉快なエピソードを教えてもらった。沖縄では昔から、家畜を家の中で飼っていた。屋敷の中に、豚や馬、鶏などがポロポロいたという。しかしアメリカが沖縄を支配したとき、やはり不衛生だとして、禁止になった。最初は外に家畜小屋を作ったが、「もっと屋敷から離しなさい」ということで少し離れたところに作り直した。

すると奇妙なことが起こった。隣の家の家畜小屋が、自分の家のすぐ隣に出現したのだ。これでは意味がない、ということで、やはりなし崩しに元に戻っていったという。実状にあわない法律で伝統的な暮らしを規制しても、無理があるということだろう。

 さて、そんな話を聞きながらそばを作る横では、ひとりの男性が綿花から糸をつむいでいた。くるくると器用に綿を棒にからめるのを見ていると、あれも楽しそうだなぁ。次回やってみよーっと。

 タネができたら打ち粉をし、たたんで包丁でカット。切るのは簡単だが、切っただけだとたたんだ麺がくっついている。そこで麺をほぐすのだが、これが大変。私もほかの女の子も、寄り目になりそうなぐらい真剣にやる。そのかいあって、ラーメンにキシメン、うどんなど、個性あふれる太さの麺が完成。

 ゆであげ、具を載せたら、うわぁ、すっごくおいしそう。なんてったって手作り。麺が少々太くてもうまいのです!

さて、これで帰ってしまっては、なにしに来たのかわからない。次は本命の石けん工場見学。ティールームとしても営業している工場は、無限大をかたどったユニークな建物。エコシステムとして機能するようになっているとか。沖縄では知られた設計集団「像」のメンバーが手がけたものだという。

室内は温度や湿度があまり変化しないよう工夫し、明かり採りのためガラス窓やガラスブロックを配置。建物は右回りの螺旋状で、ガラス戸が風を建物の中に導き、入った風は回りながら屋上の天窓から吹き抜けるよう設計されている。断熱のため、壁には赤土としっくいが塗られ、屋根にも土を乗せ、植物が植えてある。

屋上の土に染みた雨水は、地下タンクに誘導。サンゴや木炭で浄化されてからタンクに入っていき、飲料水以外の水をすべてまかなえるようになっている。それでもあまる水は隣の池(いまは魚がいない)に入っていく。この池は建物で使われたすべての汚水を合併浄化したあとの最終処理にも使われる。水路を通っていく間に、植物や微生物に分解してもらうのだ。

自然界で起こっている循環の様子をコンパクトにしたこの建物、いまから10数年前に建てたというから、すごい。社会では、まだあまり環境問題が意識されていなかった時代だ。

建物の内部は、かっこよかった。工場というより、実験室に近い。前衛的な映画のセットに使われそうな雰囲気がある。おしゃれだなー。こんなところで石けん作ったら楽しいかも。

工房の設備はなかなか立派。そして作っているせっけんも、かなり上等。ミサコさんを知る人が「あの人は凝り性だから」というだけあって、ミサコさんの石けんは、質がいい。コーヒーフィルターで濾している液体石けんは黄金色だし、粉石けんはさらさらのパウダー。これじゃ、水でも十分溶けるだろう。それもそのはず、通常3時間半で作る行程を、20時間近くかけてやっているのだから。

「うちがザイフェを使ってないのは、始めたときまだあの機械が出てなかったから。ザイフェも悪くないんじゃない?」
 できた石けんを見て、機械がどうこうというより、心構えの問題ではないかと思った。
「儲からない仕事だから、私がやろうと思った。やるからにはいいものを作らないと……」
 さらりというミサコさんに、頭が下がる思いだ。


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