5月22日(土) 「三好さん、緊急入院・その2」 ふったりやんだり

診療所に行くと、すぐ入院することになった。肺からの出血が止まらないらしい。応急処置として、酸素吸入と点滴をする。診察用の無機質なベッドの上には、無精ひげのやせたみすぼらしい老人が横たわっていた。

「朝よりひどくなってるじゃない、三好さん。下痢したり、血が止まらなかったらすぐ知らせてくださいね、っていったでしょ」
 私と同世代のオカダ医師が、やさしく話しかけている。またしかられると思い、必要のない我慢をしていたのだろう。朝にはなかった貧血まで、起こしているようだ。

入院に際しては問題があった。診療所には入院設備がない。石垣の八重山病院まで船で行くか、緊急の場合はヘリコプターだ。今日の船はぎりぎりで乗れそうにない。しかしヘリだと、つきそいが必要なのだ。

「どなたか頼める人はいないですかね」
 と先生。
「ご近所づきあいしてないですから……」
力なく三好さん。元気なうちは好き勝手しててもいいが、いざというとき、誰にも助けてもらえないのは困る。おつきあいは大切なのだ。

三好さんには飲んでくだを巻く悪友はいるが、みな頼りにならない。しかもこれからだと帰りの船がないので、自腹で石垣泊まりになる。イチローさんなら引き受けてくれそうだが、ケータイすら持たない人なのでつかまらない。探しに行くにしても、住吉は離れている。早く決めないとヘリの要請ができないという。朝、晩、散歩に寄るノボルおじいは茶飲み友だちだが、はたしてつき添いまでしてくれるだろうか? 

「ヤマシタさん、あなたがひとりで抱え込む問題じゃないから。ひとりでお住まいの方は地域で支え合わなきゃいけないことだから。干立の公民館長に連絡取ってみてもらえませんか」
 ヘリコプターに乗ることには興味があったが、私にはつき添う時間の余裕がなかった。先生のいうとおり、公民館長のジーボさんを探すことにした。

なんカ所か探したあげく、ジーボさんは給油所で見つかった。そうか、といって考え込んだ末、
「カワダさん(ノボルおじい)がダメなら僕が行こう」
 といってくれた。
 
最終的に、ノボルおじいがつき添いをすることになった。
「畑にいたけどよ、あわててズボンはきかえてきたよ」
ノボルおじいは手も洗わずに駆けつけてくれたため、土で汚れていた。私は家から三好さんの貴重品が入ったバッグと身の回りの衣類をわかる範囲でまとめ、診療所に届けた。

1週間ほど前、どこかから帰ってきた三好さんに、
「おい、悩みを聞いてくれ。酒を飲もう!」
といわれたことを思い出す。
「5分ぐらいなら聞いてもいいけど」
というと、
「64年の悩みさ。いいよ」
それ以上誘ってこなかった。今日まで10日ほど昼夜飲み通しだったという三好さん。63歳になったばかりの自分の年齢もわからなくなるほど、あのころからベロベロだったのだろうか。


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