3月10日(水) 晴れ
延び延びになっていた田植えの残りをやった。
「昼あとね」
との約束だったが、行ってみるとキンセーさんは、木陰のハンモックでお昼寝中。とっても気持ちよさそう。勝手に植えたら怒られるかな? とも思ったが、起こすのは忍びなく、ひとり田んぼに入る。
慣れたせいか、前回ほどすぐには腰が痛くならない。それでも休み休み、残りの田んぼを苗で埋めていく。中から見ると植え方のアラが目立つが、あぜに立つといい眺め。ちょんちょんと頭を出している若い苗がかわいらしい。
2時間後、ついにパレットの苗を全部植えた。ヘタくそだが、田んぼの9割はいちおう苗で埋まっている。
「やった! 田植え完了!」
ものすごくうれしい。達成感でいっぱいだ。
満足して田んぼを出ると、キンセーさんが仲間と一緒に作業をしていた。
「終わった?」
ニコニコして聞いてくる。怒られるのが心配だったが、違うらしい。
「はい!」
ブガリ直しの前に手を洗う。爪に入った土が取れず、農婦の手みたいなのが誇らしい。あとはビールで乾杯! 喜びの酒はサイコーなのだ。
3月12日(金) くもりのち雨
昼寝をして、起きたら雨だった。
「天ぷらっちゅーのを作ってみたけど、食べるか?」
三好さんが隣で叫んでいる。
「おう、60なん年かぶりに作ったよ」
つまり、生まれて初めてチャレンジしたといいたいらしい。だから雨が降っているのか?
どんぶりを持っていくと、白身魚にカボチャ、ニンジンとゴボウのかき揚げ、オオタニワタリなどをどっさり盛ってくれた。ダイコンおろしを入れた天つゆにくぐらせ、ご飯の上に載せる。かき揚げ丼の完成だ。
白身魚はふわっとしている。夏に庭で取れたカボチャも、いまだに甘くておいしい。かき揚げも悪くないし、オオタニワタリなんて、おじいにしてはしゃれている。
「三好さん、上手じゃない。おいしいよ!」
「60なん年かぶりに作ったよ」
同じことをなん度も繰り返していう。よっぱどうれしいのだろう。でも、ほんとにおいしいのだ。
3月13日(土) くもり
婦人会で染色をやる。
午前9時、公民館に行くと、真っ白なシルクのスカーフが配られた。これを染めるらしい。凧糸や木綿糸でチクチク縫って絞り、白く染め残す部分を作って模様にする。布を折ったりねじって留めたりと、みなそれぞれ独自の工夫をしている。
「私はこれ、使うよ」
ナリコさんは拾ってきたヤラブの実を布でくるみ、糸で留めた。どんな模様になるのだろうか。
模様の準備ができたところで染めに入る。染料は3種類。沖縄で台風よけに植えられているフクギ、イノシシが胃腸の調子を整えるためにかじるクールというイモ、そしてヨモギ。黄色に染まるフクギは砕いた幹を水から煮出し、赤みがかった茶色になるクールは、パパイヤの千切りを作るときのおろし金にかけ、細かくしたものをやはり煮る。うす緑色に染まるヨモギの煮だし汁も、同じようにして用意した。
染めたい色が決まったら、その植物の入った鍋にスカーフを沈める。麻や綿なら沸騰状態を保ちぐつぐつ煮るらしいが、今回はシルクなので、液を約80度に保ちながら煮汁に浸す。部分的に染めわけたい人は、いくつかの鍋になん分かずつ入れている。
約20分後、スカーフを引きあげた。赤茶色というより赤紫に近い色をしている。
「見てみて、こんなにきれいな色!」
あちこちで喜びの声が挙がる。フクギの人は鮮やかな黄色、ヨモギの人は淡い若草色に染まっている。
色止めするための媒染液にくぐらせると、どの色の人も少し渋みが出てきた。水洗いしてロープに干す。本当は乾いてから糸を抜く方がいいのだが、待つのがもどかしく、みな次々と糸を取りはじめた。
「わあ、きれい!」
白く模様が抜けている。同じ柄のものはひとつもない。ヤラブの実を使ったナリコさんのは、白くまん丸い模様がぽっかり浮いている。布をたたみ、十円玉サイズの万力で挟んで染めた人の作品は、ポップな水玉模様に仕上がっている。おもしろい。
私は乾いてから糸を抜こうと思っていたが、
「これ、どうなったのか見たい」
とみんながいうので、ほどいてみる。シャボン玉がたくさん飛んでいくイメージだったのだが、ほぼ思った通りの柄になった。はじめてにしては上出来かもしれない、と自画自賛。
染色液があまったので、このあと家から持ってきた綿のシーツを、やはりクールで染めさせてもらう。鍋から引きあげた布は濃いピンクだったが、鉄の媒染液に浸し、洗ってしばらく干していると渋い焦げ茶色になった。タダでもらった使い古しのシーツなのだが、ずいぶん高級に見える。ピクニックのときの敷物にするつもりだったがもったいなくて使えそうにない。
家に戻ると三好さんがまたかき揚げを作っていた。昨日の成功に気をよくしたのだろう。今日はオオタニワタリの代わりに庭のヨモギを入れたらしい。今日のやつもおいしくできている。この分だと私のご飯も、しばらくかき揚げ丼になるかもしれない。