2月1日(日) 「西表横断・その2」 晴れ

 カンピレー口に全員がそろうのを待って、山の横断道に入る。しばらく行くと垂直にそびえる岩に遭遇した。そんなはずはない。ほかにルートはあるはずだ、と思って振り返ると、みんな私が登るのを待っている様子。

「これ……登るんですか?」
「そう」
 イタニさんが即答する。
「本当に?」
「本当に」
 頭がくらくらする。アップダウンはないっていったじゃないか! と叫びそうになりながら、ロープを頼りに4〜5mはある岩を黙ってよじ登る。

 しかしこのあとはダラダラ道が続いた。青い実のニコゲルリミノキ、いい香りのタイワンオガタマが目を楽しませてくれる。

西表を横断するのは大学のワンダーフォーゲル部が多いという。しかし彼らは独自のルートで攻めるらしく、横断道はあまり利用しない。この道を主に使うのは、大学生や一般のハイキング愛好家だ。横断者が減るいまは道が最もわかりづらいようだ。

山慣れた人ならすぐ見分けられる程度の踏み跡はついているようだが、ハイキングすらろくにしたことがない私には、さっぱり見当がつかない。カンで適当に進むだけだ。大学が春休みになる2月3月、夏休みの7月、8月には地面が踏み固められ、もっとはっきりとした道ができるらしい。

沢に出た。川は深くないが石がよく滑る。靴を濡らさないように、かつ滑らないように慎重に渡る。こうして山道を歩きながらいくつかの沢を越え、ふと振り返ると、だれもついてきてないではないか! 私が苦労して渡った最後の沢の手前で、みな困惑気味にたたずみこちらを見ている。
「あれ? こっちじゃないの?」
「そっちじゃないです」
 ちえっ。渡る前にいってくれればいいのに。
「この目印は混乱させますね。取り外しましょう」
 あくまでも冷静にイタニさんがいい放つ。

 こうしてなんとか進んでいたが、疲れてきた。もうヘロヘロである。段差ではもはや、足を踏ん張り、えいっ! と上がる気力はない。そばにある木につかまり、這うように体を動かし省エネで動くのだった。

予定より1時間遅れでイタチキに到着。板を敷いたように平らになっているので「イタシキ→イタチキ」と呼ばれている場所だ。まだ出発地点から5kmぐらい。半分も行ってないがお昼にする。

向こうに座ったケイコさんが長靴を脱ぎ、逆さにした。黒い小さなものが地面に落ちる。
「やっぱりヒルが入ってたわ」
 冷めた声で、ケイコさん。
「あ、オレもやられてる」
カワバタっちがヒルの乗った脚に虫除けスプレーをかける。黒い小物体がぽろっと落ちた。

手でつまんでヒルを無理にはがすと、体の一部が皮膚に残り化膿することがあるらしい。カワバタっちの脚には少し血がにじんでいる。山道を歩くと「ご馳走が来た!」とばかりヒルがバラバラ落ちてきて大変な目に遭う、と脅されていたが、季節のせいかそんなことはない。しかし人知れずちゃっかりと、やつらはわれわれから血を盗んでいるようだ。

ご飯を食べて休み、靴擦れしかけているアキレス腱に絆創膏を貼ると、また元気になった。足取りも軽く出発するが、1時間もしないうちにまたまた疲れが。あと半分も残っているのに! 大富までたどり着けるのだろうか? 

ペースはガクンと落ち、のろのろとしか進まない。周りを見る余裕などまったくなし。ひたすら足下を見つめ、右足、左足と交互に前に出す。400mおきにある標識になかなかたどり着かず、1kmも2kmも離れている気がする。ああ、もう帰りたい。


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