2月1日(日) 「西表横断・その3」 晴れ

そのうち不思議なことが起こった。中間広場を越えたあたりで、体がふっと軽くなり、元気が出てきた。ペースが上がる。ランナーズハイならぬハイカーズハイだ。山道に慣れてきたのか、歩くべき道も、もはや自信を持ってすぐに見分けられる。絶好調! どこまでもどこまでも歩いて行ける気がする。

余裕が出ると後ろの人の様子もわかる。カクマさんは道にはみ出した下枝を伐採しながら「国有林」のプレートを掛け替え、ナカザトさんは標識の方向が間違っていないかなどを確認。その他の人は、台風などで倒れて道をふさいでいる大木を切ってどけたり、ゴミを拾ったり。

ゴミはほとんど落ちておらず、ごくたまーにキャンディの包装を見つけると
「あった!」
 と喜々として拾うほど。タバコの吸い殻や空き缶がひとつもないことに驚くが、うれしくもある。植物のエキスパートぞろいなので、山の中にしか生えてない植物を見つけては解説してもらったり、写真を撮ったり。来てよかったなと思う瞬間だ。

軍艦石から8.6km。古見に続く道と大富に下りる道に分かれる分岐点に着いた。
「もう少しだな」
「でもこっからひと山あるよな」
 どことなくリラックスした雰囲気で休憩する。

「イノシシ、いませんでしたね」
 だれにともなく話しかける。昨日、「イノシシ見つけたら汁にしよう」という話しがあったからだ。
「いたじゃない。見なかったの?」
 カクマさんがいう。
「ハブも見たよ、細かったけど。あれもおいしいんだってね」
とカワバタっち。
ガーン! 見逃した。そんな余裕などなかったんだもん。

しかし気を取り直し、再び話しかける。
「そろそろセイシカの季節ですよね。まだ咲かないのかなぁ?」
「あったよ、セイシカも。3つしか咲いてなかったけど」
 と得意げなナカザトさん。
 ガーン、ガーン、ガーン! なにも見てないじゃん、私!

分岐点でショックを受けたためか、残り3km弱になって気が緩んだせいか、このあと私に災難が訪れる。ぬれずに沢を越して来たが、分岐点を過ぎた最初の沢で、
「きゃーぁぁああ」
岩の上で派手に滑り、しりもちをついた。靴はもちろん、下半身がずぶぬれだ。
「冷たーい!」
大きな声で叫ぶと、どっと笑われた。せっかくここまで乾いた靴できたのに。それにしても、長靴だとぬれずに沢が越せるが足が傷み爪がはがれたりする。トレッキングシューズだと歩きやすいがぬれる可能性大だ。横断のはきもの選びは難しいなぁ。

ぬれてヤケクソになった私は、ザバザバと大胆に沢を渡るようになった。しかしさらに2回、滑って転んだ。どうやってもぬれる運命だったようだ。
「横断道の最後は沢沿いを歩くんだよね。暗くなるとホタルがきれいなんだけど、今日は見られるかな?」
 ナカザトさんは楽しみにしているふうだが、そんな時間まで山の中をさまよいたくはない。必死になって、歩く歩く。

“軍艦岩11.8km、大富7.8km”という最後の標識を越えた。もうだいぶ歩いたのに、目的の大富口にはたどり着かない。標識が抜けているんじゃないか? と不信感を募らせ歩いていると、
「あ、あれは道じゃないか? 文明が見えるぞ!」
とカヌーショップのガイドくん。前方に光差す外界が見えている。

木々のアーケードを抜けると、砂利道に出た。まだ明るい。18時1分。
「やった!」
 ガイドくんとハイタッチをして、あとのメンバーを迎える。ケイコさんは最後にまたズルっとやっていたが、うれしそう。他の人も達成感に満ちた顔だ。けが人もなく、よかったよかった。

帰りの送迎バスの中で、ビール2本、魚肉ソーセージ2本をいただく。あーおいしい。あー疲れた。あとは風呂に入って寝るだけだ。


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