2月4日(水) 「イノシシ狩り・その1」 雨ときどきくもり

昨日、あけぼの館のヒロミさんから電話があった。
「お兄ちゃんがね、明日、晴れたらイノシシ狩りに行くけどどうしますか、って」
 毎年11月15日から翌年の2月15日までの3カ月間、西表ではイノシシ狩りが解禁になる。たびたびご馳走になるイノシシはどんなふうに捕まえるのか見てみたかった。そこで以前から、狩りに連れていってもらえないかとヒコさんにお願いしていたのだ。

きょうの予報はくもりのち雨。降らないうちに出かけるということで、8時半にヒコさんちへ。サトーさんが加わり3人で出発だ。

イノシシ猟には縄張りがある。暗黙の了解で、この山はだれの狩場というのが決まっているらしい。ヒコさんの山(といっても国のもの)は上原にあった。農道をなん度か曲がったところで車が止まる。
「チナミさん、虫除けつけてくださいね」
そういいながら、ヒコさんが虫除けクリームを渡してくれる。アメリカ製の強力そうなやつだ。

「冬でも山の中は蚊がいるんですか?」
「モッコがいます。刺されるといつまでもかゆいの。耳をチクっとやられますから、きっちり塗ってください」
日焼け止め代わりにファンデーションを使っていたが、かまわず上から虫除けを塗る。

舗装された農道から1歩入ると、森が広がっていた。外とはまったく別世界だ。枯葉で埋め尽くされた道を行く。人ひとりがやっと通れるぐらいの幅だが、少し石が敷いてあり、歩きやすい。
「これはツルハシで作った道です。15〜16年前まで炭の積み出しに使われてたんですよ。水牛に荷を引かせてね」
この山はヒコさんが子供のときに遊んだ場所で、お父さんとよくキャンプしたらしい。だから昔の様子にも詳しいのだろう。

 森の中は光が射さず、薄暗い。川が流れ、シダ植物が群生し、しっとりしている。横断道より景色が変化に富み、おもしろいではないか。
「ほら、あそこにオオウナギが」
ヒコさんの指さす先で、大きなオオウナギがゆったり泳いでいる。
「あ、僕たちに気づいて逃げてる。速いなぁ。もう茂みに隠れたよ。じいさんヒゲスッポンとかアナゴとか、たくさんいるんだよなぁ。ここにくるといっろんな生き物に会えるから、だっから山に入るの楽しくて」
子供のようにウキウキしているヒコさんだ。

長いこと銃でイノシシを捕っていたヒコさんは、14年前、お兄さんにこの山(縄張り)を貸した。しかし「今年はもう大変だからやらない」といわれ、イノシシ狩りの免許取りたてのたサトーさんと今年からワナを始めることにした。ワナの方が捕れる確率は高いのだ。

今日は5日前に仕掛けたワナを見回る日である。47〜48個の仕掛けをチェックし、獲物がかかっていたら捕まえ、ワナがはずれていたらかけ直すのだ。
「チナミさんはここでしばらく待ってて」
そういい残し、ふたりは別々の方向に山の斜面を上がっていく。あたりまえのことだが、広い山のどこに仕掛けを置いたか把握しているのが頼もしかった。

ひとりになり、石の上に座ってあたりを見回と、川のほとりにすらっとした木が群生していた。サガリバナだ。いまはボウズに近いが6月中旬には美しい花を咲かすだろう。これだけたくさん生えていると、さぞかしきれいに違いない。今年の夏はここでお花見をしたいものだ。

足下にはドングリがたくさん落ちている。カシだ。この山にはシイやカシがいっぱい生えている。ということは餌が豊富なので、太ったイノシシがいるということである。ヒコさんによると、シイは人間が食べてもおいしいぐらいの実で、縦に筋が入った幹が特徴。カシは真冬、なにも食べ物がなくなった季節に、イノシシが最後に手を出す食料。歩いてきた道にはカシの実がたくさん落ちていて、芽が出かかっているのもある。山にはすでに春の気配が訪れていた。

約10分後、自分が担当するワナを見回ったヒコさんが静かに下りてきた。
「ショックだなあ。あと4歩近くを通っていたら入ったのになぁ」
間もなく、木々の葉をザワザワさせながらサトーさんも戻る。
「今朝通ったみたいね。足跡はいっぱいあるんだけど、かかってないなぁ」

3人で再び歩き始める。ほかのワナも見回るが1頭もかかっていない。
「なかなかかからないものですねぇ」
と話しかけたとたん、細い竹がびよ〜んとはねた。イノシシの通り道のワナを、私が踏んだらしい。
「ごめんなさい!」
急いで謝る。

「いいよいいよ」
やさしいサトーさんは文句もいわず、ワナを掛け直している。掘った穴には竹とシャリンバイで作った仕掛けが埋め込まれていた。その上に葉っぱをかけ、さらに土をかぶせる。穴の入り口に置いたワイヤーも見えないようカモフラージュ。

「イノシシにはワナがわかるんですかね?」
「うん。じゃないと全部かかってるでしょ。通り道に仕掛けてるんだから」
とヒコさん。そりゃそうだ。
「どんなにうまく隠しても、なんか違うぞ、って思うらしいよ」
サトーさんもイノシシの洞察力に感心している。

歩いていると、ところどころに大きな窪みがあった。ヌタ場だ。体についたダニをこすり落とすため、イノシシはこういった窪みに体をこすりつける。
「ここにも通った跡があるなぁ」
探偵のように足跡をめざとく見つけ、ヒコさんがいう。しかし私にはよくわからない。ヒコさんやサトーさんの目は赤外線視できるじゃないかという気がしてくる。


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