今日の朝食はお雑煮。日替わりでジャンジャン横町の店を開拓していく。
午前中は釜ヶ崎の生き字引といわれるヒライさんのツアーである。まずはあいりん労働センター前の関西線ガード下、ワンワン道からスタートだ。資料を読みながら説明を聞いていると、向こうから自転車に乗った人がやってくる。私たちのいる場所から少し離れたところはゴミの収集場所。粗大ゴミというか、ガラクタが少し積んである。やってきた人はみなそこで足を止め、じっと目をこらし、中には自転車から降りてガサゴソやり、“お宝”を探していく。
来る人の自転車の荷台は、みな同じように改造されていた。ベニヤ板を乗せ、あるいは大きながごを取りつけ、大型のお宝が運べるようにしてあるのだ。ここで生きていく生活の知恵だ。実におもしろい。形のあるものをそのまま持っていく人もいるが、ネジだけとか部品だけとか、器用にはずし、持ち去る人も多い。こういうモノをムダにしない精神を、みんな見習うべきだろう。ふと三好さんを思い出す。元気にしているだろうか、おじい。
通りにはまた違ったジンブンに長けた人もいる。路上で寝ている男性だ。彼は段ボールではなく、なんとボール紙でできた卵パックの業務用シートを地面に敷いている。点で支える無圧ふとん、ストリートバージョンである。体にやさしい生活。しかもビニールシートなんかよりずっと保温性がすぐれているはずだ。頭いいな、ほんとに。
午前中の講師、ヒライさんはすごい人だった。釜ヶ崎を中心とした西成地区のことを、隅から隅まで調べて知っている。なに気ない石碑ひとつとっても、裏に刻まれた文言から、差別の歴史をひもとき解説してくれる。ごくありふれた踏切の前でも、
「ここは自殺の名所なんですよ。ほら、こんなにたくさん亡くなっている」
と自ら編集した資料を出して配る。釜ヶ崎で行き詰まった人が、なん人もこの踏切で人生を終えているという。
ヒライさんを先頭に歩いていると、ちょっと風変わりなデザインのお寺に着いた。彫刻というか、金属性の変わったオブジェがあちこちにある。
「ここの住職は建築家でもあるんですが、この地区で亡くなる無縁仏のお骨を納めてくれています。1万5000体たまると骨を砕いた粉で仏像を作るんですよ。確か今、6体ぐらいあるんじゃないかな」
開放的で新しいデザインのお寺は、やることも進んでいるのだ。
そのまま進むと、とある有名なお寺に出た。ここはさっきの寺と違い、周りに塀を張り巡らせ、さらにフェンスで固めている。寝る場所に困った労働者が野宿できないようにだ。このお寺には、ほかにもいろいろ差別的なエピソードがあった。困った人に手をさしのべるのがお寺の役目のひとつと思うが、ここはお金のある人にしか慈悲を与えないようだった。
さらに歩くと公園に出たが、この公園も中に入れないようフェンスで囲い、門には頑丈なカギがかけられていた。入園料が必要で、お金を払う人だけが正面から入れるようになっている。しかし中には特に見るべきものがない。そのためあまり人が訪れていない。
「ここは地域の災害時避難所になんですがね。本来、衝撃が加われば開くはずの門に、こんなカギをつけてるでしょ。避難所の意味をなさないんですよ。役所になん度も抗議したんだけど、『わかりました』っていって、改善しない。ホームレス対策なんですよね、これも」
ヒライさんの心のが安まる日は、なかなかやって来そうにない。
お昼を食べた後、大正駅そばにある大阪人権センターを訪れる。隣のホール「リバティ21」で行われる太鼓の演奏会を聞くことになっているのだ。
人権センターのあたりは、いわゆる“部落”である。昔は牛の皮が干されていたり積み上げられていて、皮の臭いとともに靴の甲皮をたたく音や皮の型抜きをする姿が見られた。現在、太鼓の町として有名になったこの地域には、4軒の太鼓屋さんがある。年輩の職人の多くは学校にも行けず、子供のときから見よう見まねで仕事を覚え、生活のため、生きていくために太鼓を作り続けてきた。
しかし、いくらすばらしい太鼓を作っても、作り手が注目されることはない。作られた太鼓をたたく人たちには、伝統芸能・文化の継承者として賞賛が与えられるのに、だ。「その事実こそが部落差別だ」として、1987年、部落産業の伝統文化を正しく認識してもらおうと、地域の青年たちが太鼓集団「怒」を結成。その後、子供の太鼓講習会「怒」、地域の保育士を中心とした太鼓サークル「童」も作られ、今日は3グループ合同の発表会が行われることになっていた。
ところが、会場に着くと満席だという。
「なんとかなると思ったんですけど、すいませんね」
事前に席の確保をお願いしていた係の人が説明する。
「立ち見でもいいんですが」
食い下がるタケオ先生。
「出演者の家族やお友だちもお断りしているんで……」
残念だがしかたがない。
そこで、演奏会の後に寄る予定だった隣の人権センターに直行する。こういう施設の展示はあまりおもしろくない、という偏見を持っていたのだが、あっさり裏切られた。魅力的なコンテンツがいっぱいで、見る時間が足りそうにないのだ。
せっかくだからと最初に部落の展示コーナーを見る。1本5分程度のビデオがおもしろく、全部チェックしていたらあっという間に時間が過ぎた。あわてて隣の在日差別コーナーに行く。こここをじっくり見たかったのだが、閉館5分前の「ホタルの光」が流れていてアセる。
「あー、まったく消化できてない!」
もやもやした気分でロビーに行くと、
「時間が全然足りな〜い!」
とみんないっている。やっぱりそうか。
お祭りで太鼓を演奏する姿をビデオでちらっと見たが、すばらしく迫力のあるものだった。今度は祭りのときに来たいなぁ。そして人権センターでもたっぷり時間を取って、いろいろ学ぶのだ。
参考文献:怒塾・童・怒 合同演奏会パンフレット