9月23日(火・祝) 「ジュゴン調査隊が行く・その5」 晴れ

調査最終日の今日は、再び新城へ。といっても上地ではなく、下地島である。この島にもジュゴンを祀った御嶽があるらしいのだ。

これまで2日間、なにひとつ収穫がなかった。下地島では骨の破片でも見つけて帰りたい、というのがみんなの願いである。

下地島は現在、牧場になっている。250頭ほどの牛と、飼育をする人が2人。集落はなく、牛の世話をする人の寮が1軒あるだけだ。

下地島は上地島とは全然違う雰囲気で、広々と開放感にあふれていた。広大な海外の牧場とイメージがだぶる。牧場の中を少し行くと、管理棟があった。ジュゴンの調査をしていること、紹介を受けて御嶽を探していることを隊長が伝えると、
「ああ、ありますよ。わかるかな。ちょっと見つけにくいところだけど」
 そういいながら、丁寧に行き方を教えてくれる。

管理棟の人は2つのルートを教えてくれた。海岸線沿いに歩く方法と島の中から攻める行き方だ。海岸沿いはわかりやすいが、かなり遠回りになる。島の内側を通れば近いが道がわかりにくい。
「どちらから行きましょうか?」
隊長がみんなに聞くと、
「僕は海側で行きます」
「じゃ、僕は陸から」
 結局、二手に別れ、両方から探すことになった。

 私は海岸チームについていったが、内陸チームも土手のすぐ上を歩いているのでお互いの気配がわかる。
「こっちはかなりブッシュが深くなってきた」
 内陸チームが中継してくれる。
「歩きにくいなぁ。ナタを持ってくるべきだった」

 一方、海岸チームはまっすぐ歩くだけ。どこかで土手に上がらなくてはいけないのだが、さっぱり見当がつかない。
「ヘンだなぁ。このあたりだと思うけど」
 ちょっと土手に上がってみるが、御嶽の気配はない。そのうちみなバラバラになって、勝手に探しはじめた。
 
「痛っ!」
ブッシュチームのひとりが小さく叫んだ。
「大丈夫ですかぁ?」
声をかけてみる。
「ハチに刺された」
 えっ。だからイヤだったんだ、ブッシュを行くのは。アダンに引っかかれ、蚊に刺され、そしてダニの巣窟なのだ、きっと。

1時間以上歩いているが、御嶽は見つからなかった。「歩いて、せいぜい20〜30分ぐらい」と管理棟の人は教えてくれたのだけれど。道を間違えたのではないか?

疲れてきた。もう見つからないんじゃない? お腹がすいた。早弁したい。金魚の糞の私はのんきにぶらぶら歩いているが、わざわざ那覇から出張で来ている彼らは、収穫を得ようと必死だ。

とうとうふたりだけになると、大学生のマキちゃんと私は海岸に座り、お弁当を食べはじめた。
「ジュゴン、見つかるかな?」
「どうでしょうね?」
もぐもぐもぐ。

するとケータイが鳴った。
「あったわよ! いま、どこ?」
最初、海岸チームにいて、そのうちブッシュに入っていったアヤノさんが電話をくれたのだ。

あわててお弁当を終わらせ、教えられた通りに歩き出す。海岸からブッシュに入り、迷いながらそこを突き抜け牧場に出る。柵に添って歩いていると、アヤノさんが手を振っているのが見えた。やっと会えた!

「こんなところに!?」
森の中、ひっそりと御嶽はあった。私ひとりなら絶対に見つけられないだろう。彼らはエキスパート。“クバあるところに御嶽あり”という鉄則に従い探し当てたのだ。

御嶽に入ると、隊長、副隊長を中心に、みな熱心に写真を撮っている。
「すごいですね、いや、すごい!」
 と副隊長。
「5体、6体……う〜ん、軽く12体はありますね」
興奮し、バシバシ写真を撮り、計測しながら、博物館の調査員・Sさんが目算する。
「これは早急に調査しないといけませんね」
とアヤノさんも価値を認める。

「ジュゴンの骨、あったんですか?」
聞いてみる。
「これがそうだよ」
副隊長が教えてくれるが、
「へーそうなの?」というぐらい、実感がない。副隊長の手には、土にまみれコケむした動物の骨が乗っていた。

以前は御嶽のまわりにずらっとあったという頭がい骨は、崩れかけたものがかろうじて残っているだけだった。
「こういうの持っていっちゃうのって、実は観光客じゃないんだよね。いちばんタチが悪いのは、実は研究者なんだ」
 とSさん。もうこれ以上、減らなきゃいいのだが。

ハチに刺された人も、蚊に刺された人も、アダンで傷を作った人も、早弁した人も大満足だった。帰りはみな晴れ晴れとした顔で、天国のようなパナリの美しい海を後にした。


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