おじいは犬を飼っている。
白いのでシロという。
宝の山の資源を大いに活用しているおじいではあるが、ペットにはめっぽう甘く、シロは上等な赤い首輪を買ってもらい、身につけている。白いボディに赤が映えてキュートだ。
部屋を出るとシロが小首をかしげてこちらを見るので、ちょっとかわいがりたくなった。
綱を引いて散歩に出る。が、普段、全然相手にしない私が、
「ほら、散歩だよ、散歩」
と機嫌を取ってみても、警戒してついてこない。道に出たところで座り込み、首から先だけが引っ張られる形になってしまった。
しかたがない。
綱を手放すと、とっとと喜んであたりを飛び回っている。近所のギイチおじいのクロもやってきて、じゃれて遊ぶ。
やれやれ、そのうち帰ってくるだろう。と放っておいて家に戻る。
しばらくたったが、シロは帰らない。海に行くと浜で相変わらず、クロと連れだって遊んでいた。
「シロ、帰るよ!」
声をかけると、一瞬こちらを見るのだが、近づいて綱をつかもうとすると、さーっと逃げる。
「シロは畑を荒らしていたよ。毒餌で殺されるよ」
こないだノボルおじいがいっていたことが頭をよぎる。ネズミから作物を守るため、このあたりでは殺鼠剤を定期的に畑に撒いている。それを犬や猫が食べて死んでしまう事件が、わりとよくあるらしい。シロが帰り道、畑の殺鼠剤を食べたら……。そう思うと、捕獲に必死さが増すが、こちらがやっきになるほどシロは軽やかに身を翻す。最後は、どうにでもなれ、という気分。
家にいるとプロパンガス屋のウエチさんがガスボンベを持ってきてくれた。私が買ったのは5kgのやつ。これで2カ月ぐらいはもつらしい。中身がなくなると、ボンベはウエチさん経由で石垣に運ばれ、ガスを補充され、再び船で西表に戻ってくるという。ボンベがない間はカセットコンロを使用。離島ではガスひとつ手に入れるのも大変だ。
ずっと探していたガスコンロは、ウエチさんが見つけてきた。どこかのお宅で野ざらしになっていたのを譲ってもらったらしい。グリルは使えないが、コンロはしっかり2口使える上等なガス台である。
「あ、立派な貝があるね。自分で採ってきたの?」
ガス管をつなぎ終えると、海水につけて横に置いてあった貝をウエチさんが発見。おとといスーさんたちと採ってきたものだが、どうやって食べたらいいかわからず、そのままになっていた。
「鍋にこれぐらい水を入れて焚けばいいさ。タカセガイとサザエは渦になってるでしょ。ゆであがったらまな板にトントン打ちつければするっと全部出てくるよ。クモガイは割らなきゃ身が出せないけどね」
島の人は本当に貝の食べ方をよく知っている。
さっそくつながったばかりのガスの元栓をひねり、教えてもらったようにゆでる。少し貝を冷まし、トントンすると、いわれたとおりするすると中身が出てきた。おお、すばらしい! まだ湯気が立つ貝に塩をつけ、ちょっと食べる。うまい。残りは晩のおがずにしよう。
外に出ると、いつの間にか帰ってきたシロが寝ていた。もしや死んでる? と思い声をかける。ヤツは寝たまま頭だけ起こし、面倒くさそうにしっぽを振った。
「生きててよかったよ、シロ!」
信頼関係の構築には日常のコミュニケーションが大事である。そう思い、ゆでたての貝を少しやる。
次からはちゃんと、散歩させろよな。