10月2日(月) 「オオウナギ」 晴れ

朝、気持ちよく寝ていたら、
「オイ、ヤマシタさん、オオウナギだよ、オオウナギ!」
と、ミヨシさんが玄関先で騒ぎだした。
「おーい、おーい、写真! 100年に1度のオオウナギだよ」
だからなんだというのだ。私はまだ寝ていたいのに。

「釣った人もな、写真を1枚欲しいといっとるんや」
無視して寝ているつもりだったが、そのひとことで起きることにした。写真を撮ってプリントしてプレゼントすることは私のゆいいつ得意とするところだからだ。

カメラをひっつかみ、まだ半分しかあいていない目をこすりながら、やっとのことで声を出す。
「どこの家?」

当然、「○○さんち」という返事が返ってくると思っていた。そしてそれがだれの家であるかは重要ではなく、ただなんとなく、挨拶のようにたずねただけだった。ところがミヨシさんは、
「いいからついてこい!」
とひとこと。だまっていると、
「来いっていってるのに!」
じれている。かちんと来た私は、それでも冷静にいった。

「ミヨシさん、人にものを頼むときはそうじゃないでしょ」
「100年に1度のオオウナギが……もういい!」
「最近、いつでもでしょ。みそ汁とか」
昨日の朝も、まだ寝ているというのに、
「おーい、みそ汁作ったぞ。ここに置いとくぞ」
と声をかけられ起こされたのだ。

「オレの気持ちが通じんか!」
「通じない! 勝手すぎ!」
私の声も大きくなる。するとおじいはこう捨てぜりふを吐いた。

「おう、荷物まとめて出て行けよ。帰ってくるな」
「出ていきません!」
どっちにしろ、あと小一時間もしたら、東京に帰るため出発しなくてはならない。が、これは彼のいう「出ていく」のとは違うだろう。急に引き払えといわれても困るのだ。

ミヨシさんはそのまま、走ってぷいっと出ていってしまった。オオウナギを釣った人に「ヤマシタは来ない」といいに行ったのだろう。写真を期待していたその人には申し訳ないが、しょうがない。

カッカしながらパッキングしていると、いつのまにか帰ってきたおじいが話しかけてきた。
「ヤマシタさん、ラブレター」
渡された紙にはこう書いてある。
「100年に1度のオオウナギ。見せようと思ったら怒られた」
本当は、彼の気持ちは通じていたのだ。私に見せたら喜ぶだろうと声をかけたのはわかっていた。ただ、私は巨大なオオウナギはすでに何度か見たことがあり、今日は、むしろ寝ていたかったのだ。

俳句はほかにもあった。
「3年半、ようこそようこそありがとう」
黙っていると、おじいがぽつんといった。
「キミがいなくなったら、寂しくなるよ」

そこにキシテのおばあがやって来た。ちょうどいい、おばあにだけはいっておこうと、島を出ることを伝えると、
「寂しくなるな。踊りを忘れるなよ」
しんみりいう。思わず涙ぐんだ。おばあの目にも涙がにじんでいた。


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